琵琶湖水系から固有のカワニナが新種記載され、今年6月10日、学術誌「Evolutionary Systematics」に掲載されました。
カワニナ属は一見すると地味で小さな巻貝ですが、琵琶湖という特殊な環境下で多様化した面白い分類群でもあるのです。
この記事ではカワニナについてご紹介します。
カワニナとは
カワニナ科は淡水に生息する小型の巻貝で、国内のカワニナ科はカワニナ属のみからなります。
カワニナ属はこれまで21種が知られており、そのうちの1種カワニナは日本各地に分布する普通種。カワニナ属の巻貝はそれぞれが非常に似た形質を持つことから、同定が極めて難しい一群とされています。
そのため、採集地が非常に重要な情報であり、カワニナ属の同定には欠かせません。
カワニナとタニシの違い
淡水域に生息する巻貝といえばタニシ(タニシ科の総称)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
こちらも日本各地に分布する巻貝で、一見するとカワニナによく似ています。しかし、カワニナとタニシは形質などから区別することが可能です。貝類が丸っこいのがタニシ、細いのがカワニナ、蓋がきっちりと閉まるのがタニシ、隙間ができるのがカワニナなどの特徴から区別できるとされています(タニシとカワニナの違い-日本淡水魚類愛護会)。
また、タニシは食用としてきた歴史があり神奈川県などではタニシを使った郷土料理が存在します。現在ではほとんど食べられなくなったものの、かつてタニシをたんぱく源としていたのは確かなようです。
一方、カワニナは食用にされないもののゲンジボタルの幼虫がエサとして利用しており、ゲンジボタルの育成には欠かせない存在といいます。なお、カワニナの「ニナ(蝸螺)」は巻貝を総称する単語であるため、川にいる巻貝という意味だそうです。
琵琶湖はカワニナ天国
カワニナやチリメンカワニナは日本各地に分布する種ですが、広範囲に分布するカワニナ属は少数で、日本産カワニナ属の多くが琵琶湖水系の固有種とされています。
日本最大かつ最古の湖で、最深部は水深104メートル。多様な環境を有するこの湖でカワニナ属は琵琶湖水系で大規模な種分化をしました。琵琶湖水系固有のカワニナ属はなんと18種も知られており、種によって好む水深や底質が異なるといいます。
18種のうち、サザナミカワニナは2021年、トキタマカワニナ、チクブカワニナ、コンペイトウカワニナ、ケショウカワニナ、シノビカワニナは2022年に新種記載されたばかりです。ちなみに、2021年に新種記載されたサザナミカワニナは当時26年ぶりとなるカワニナ属の日本産現生カワニナ属だったとか。
また、今回、新種記載されたアザイカワニナは滋賀県の固有種であり、琵琶湖北湖沖に分布。本種を含め日本産のカワニナ属は22種となりました。
琵琶湖のように多種多様なカワニナ属が見られる環境は世界的にも珍しいといいます。そんな琵琶湖のカワニナたちですが、水位操作や工事による環境変化から数を減らしつつあるようです。
今後、人間の生活ばかりではなくこういった小さな生き物にも目を向ける必要があるでしょう。
(サカナト編集部)
参考
(26年ぶりに日本から現生のカワニナの新種を発見-京都大学)
(琵琶湖から現生カワニナの3新種を発見―古代湖における巻貝の種多様性を再評価―-京都大学)