新種の生物と聞くと私たちの生活とは無縁のように感じます。しかし、実は新種というのは案外身近な場所に潜んでいるものです。
今回紹介する「ダイオウキジンエビ」は、知床で消費されていたエビが実は新種だったというケースで話題となりました。
ダイオウキジンエビとは
ダイオウキジンエビは、エビジャコ科キジンエビ属に属する甲殻類です。水深600~1000メートルの深海に生息し、体長は20センチを超えます。このサイズは小型種の多いエビジャコ科の中では最大級であり、それまで最大種として知られていたオホーツクキジンエビの体長17センチを大きく上回ります。
そんなダイオウキジンエビが新種として記載されたのは、2016年のことです。キジンエビ属の新種の存在は以前から知られていたものの、過去(1988年に釧路沖で採集)に採集された標本は状態が悪く新種記載には至っていませんでした。
時は流れ2015年、知床沖で深海生物調査を行っていた、「アクアマリンふくしま」が採集した標本を研究者が調べたところ、1988年釧路沖で採集された標本と同種であることが判明しました。そして、これらの標本をもとに「千葉県立中央博物館」との共同研究が進められた結果、釧路沖、知床沖で得られた標本は、これまで日本から記録されていた6種のキジンエビ属にはない特徴を持っていることが判明したのです。
ダイオウキジンエビはその大きさや風格から「Sclerocrangon rex」と命名されました。種小名の「rex」はラテン語で「王」を意味し、まさにダイオウキジンエビに相応しい学名になっています。
ダイオウキジンエビは地元では普通に食べられていた
2016年に新種記載されたダイオウキジンエビですが、実は羅臼では「ガサエビ」と呼ばれ食されてきました。知床沖ではキンキを狙った刺網漁が行われており、ダイオウキジンエビは刺網で少量漁獲されるものです。地元の人たちはこれを焼いて食べたり、汁物で食べたりしていたそうです。
今まで食べていたものが実は新種だったというのことたちまち話題になり、現在では羅臼町の「ふるさと納税」の返礼品としても扱われています。
このように新種の生物は私たちの生活の近くにいる場合もあります。もしかすると、今食べている海産物の中にも新種がいるかもしれません。
(サカナト編集部)