芸術と美食の巨匠である北大路魯山人。彼が愛した魚としてすぐ思い出されるのはアユとハモですが、今回はあまり一般に知られていない魚「ゴリ」をご紹介します。
彼自身が発行していた月刊誌『星岡』第二十二号の「お茶漬十種」というエッセイの中でこの魚を取り上げ、生醤油で煮たゴリを、熱々のごはんの上に乗せていただく「ゴリ茶漬け」が絶品であると書いています。
ゴリと呼ばれる魚
「ゴリ」とは特定の魚を指す名称ではなく、ヨシノボリやカジカ、ウキゴリ、ドンコなど底地魚のことを呼ぶ総称のこと。地方によって指す魚は異なり、例えば石川県ではカジカを「ゴリ」と呼んでいます。
石の陰などに隠れて休んでいるようにみえることから、漢字では魚へんに休むと書いて「鮴」と書きます。
漁の方法
基本的にはゴリ漁は二人一組になって行います。
川下に「ブッタイ」という三角の竹ざるを設置し、30センチ×40センチほど長方形の木の板に足をかける穴をあけて、両手で持てるように1.5メートルほどの長さの角材を取り付けます。
ゴリゴリと川底を足で押して石の下に隠れた俊敏なゴリを驚かせ、ブッタイに逃げ込んだところを捕獲します。
ゴリ押しの語源
このゴリゴリっと無理やり石を押しのけて魚を捕獲する様子は、自分の主義主張を無理やり押し通すことを意味する「ごり押し」という言葉の語源になったと言われています。
今夜の一皿に
お茶漬けの上に乗せる「ごりの佃煮」は、昔は家庭の味というほど食されていたようですが、近年漁獲量が減り、ゴリは高級食材となっています。
当時、魯山人が食べていたゴリ茶漬けは京都の桂川で捕れた体長10センチ前後のゴリでした。彼が食べた魚種は正確にはわかりませんが、現在佃煮に加工されているゴリはハゼ科のウキゴリが主流です。
現在でもゴリの佃煮として販売され購入も可能なので、食欲の秋に美食家の魯山人が絶賛したお茶漬けを召し上がってみてはいかがでしょうか。
(サカナト編集部:オダ ナギ)
参考
北大路魯山人「星岡」第二十二号.お茶漬け十種.(昭和7年9月12日発行)