趣味のフィールドワークとして、魚を撮影する人も多いと思います。そこで何気なく観察したり撮影したりした魚が、「実は新種だった!」「初記録だった!」ということが時々起こります。
今回はダイビングにおける魚の撮影・記録の重要性、魚の種同定に用いる書籍の紹介をします。
ダイビング写真は貴重なデータになる
これまでに約3800種もの魚類が日本の海から記録されています。ごく最近でも新種や初記録となる魚が見つかり、日本における魚類の種類数はさらに増えるのではないかといわれています。
スキューバダイビングは1960年代から魚類学者に使われるようになり、多くの新種がスキューバダイビングによって発見されるようになりました。
さらに1980年代になると、一般の人たちがアクティビティとしてスキューバダイビングを行うようになり、同時に水中カメラやハウジングの性能も飛躍的に向上しました。
毎日各所でダイビングが行われ、そのダイビングの回数、写真の記録の数だけ撮影されている魚類の数も膨大なものになります。例えそれがアクティビティ目的だとしても、そこで記録される魚類写真の“貴重さ”は無視できないものなのです。
そうしたことから、神奈川県立生命の星・地球博物館と国立科学博物館は共同で魚類写真資料データベースを構築しました。このサイト(データベース)にダイビング写真はもちろん、釣り等で入手した魚なども登録することができます。
筆者は大学生の頃、生命の星・地球博物館で魚類の研究をしている瀬能宏先生の研究室に実習でお邪魔したことがあります。瀬能先生は実際に送られてきた膨大な量の魚類写真を選別しており、そこから種類がよくわからない魚類写真が見つかることも時々あるそうです。
自分が何気なく撮影した写真が研究に役立つと聞くと、なんだかワクワクしてきませんか?
ダイビング中に不思議な魚に出会う
今回、この記事を書こうと思い至ったのは、私自身がダイビング中に“よくわからない魚”に遭遇したからです。それがこの子(下記写真)です。
鰭が美しいこの魚はキリンミノと思われます。
ミノカサゴにも似ていますが、キリンミノはヒメヤマノカミ属のため少し離れています。私が近づいても逃げようとせず、毒のある背びれを向けて威嚇してきました。
ダイビング後にダイビングショップのサイト等でキリンミノを調べてみました。
キリンミノは尾鰭の根元の褐色が「T」の字を横に倒したように見えることから多種と区別できると書かれていましたが、今回見かけた個体はこの「T」の字を有していません。
図鑑に記載される形態的特徴から十中八九キリンミノだとは思いますが、確認したサイトの情報とは少し違うのが気になりました。私も、この写真を上記のデータベースに登録してみようかと思います。
筆者が種同定に用いている書籍
筆者が魚の種同定に用いる書籍がいくつかあり、それぞれ目的に応じて使い分けています。
ダイビングで見かけた魚を調べる『山渓カラー名鑑 日本の海水魚』
ダイビングで撮影した魚の種類を調べるときによく用いるのは、『山渓カラー名鑑 日本の海水魚』(山と渓谷社)です。
1997年初版の古い図鑑ですが、現在日本で見られる約3800種のうち2420種が記載されています。ダイビングで見られる魚はほとんど網羅していると言っていいでしょう。
この図鑑の凄いところは、カラー写真の豊富さです。1種につき1枚ではなく複数枚が掲載されており、環境による体色の変化や成長に伴う模様・形態の変化の写真もしっかり載っています。
今では絶版になってしまった図鑑ですが、時々古本で売られていることもあります。非常に貴重なので、見かけたら即購入することをお勧めします。
標本を同定する『日本産魚類検索:全種の同定』
筆者はあまり多用していませんが、あると便利なのが『日本産魚類検索:全種の同定』(東海大学出版会)、通称『魚検』です。
こちらは主に標本を同定する際に用います。
ダイビングで撮影した魚は鰭の棘上・柔条を数えるのが困難です。そのため、写真の種同定には『日本の海水魚』を用い、『魚検』は補足資料として使っています。
このように説明すると、『日本の海水魚』の方が使い勝手がいいように聞こえてしまうかもしれませんが、しっかり標本を用いて種同定を行うのであれば『魚検』の方が有用です。その時々で、用途によって上手く使い分けるのがいいと思います。
見つけたサカナはなんでも写真に撮ってみよう
今では一眼などの高級カメラやレンズを買わなくても、スマホで手軽に写真撮影ができる時代です。ダイビングでなくとも、海を探索したときや釣りをしたとき、見つけた魚を撮影・記録して調べてみましょう。
もしかしたらあなたの撮影した魚が、今後の魚類研究に大きな影響を与えることになるかもしれません……!
(サカナトライター:みのり)