日本では聖ペテロとも呼ばれるサン・ピエトロは、イエス・キリストの12使徒のうちのひとり。イタリアには、これと同じくサン・ピエトロ(Pesce San Pietro)という名前で呼ばれている魚がいます。
この記事では、サン・ピエトロの名前の由来や、イタリアで楽しまれているサン・ピエトロを使った料理を紹介します。
サン・ピエトロと呼ばれる魚の正体はマトウダイ!
サン・ピエトロの標準和名はマトウダイ。温帯の広い範囲に分布する魚で、太平洋や地中海にすんでいます。日本では未利用魚として扱われることも多いですが、ヨーロッパ圏ではよく食べられています。マトウダイは体の中央にある大きな黒い点が特徴の魚です。

マトウダイ(提供:PhotoAC)
マトウダイという和名の由来には大きくわけてふたつの説があります。ひとつは弓道の的に似ていることから的鯛、ひとつは縦に長い顔の形が馬の頭に似ていることから馬頭鯛とされています。英語圏では「的のある白身魚」という意味でターゲットパーチと呼ばれています。
では、ヨーロッパではなぜ聖ペテロの名前がつけられているのでしょうか。これにもマトウダイの模様が関係しています。
なぜサン・ピエトロという名前なの?
イタリアでサン・ピエトロと呼ばれるマトウダイ。その不思議な名前は、聖書の中にあるマタイ伝17章24~27節がもとになっているといわれています。

サン・ピエトロ(聖ペテロ)像
イエスとその弟子たちが、カペナウムという町で神殿税を払うことを要求されました。そこでキリストはペテロに対して、「湖に行って釣りをして、最初に釣れた魚をとりなさい。その口をあけると銀貨一枚が見つかるから、それをとって、わたしとあなたの分として納めなさい」といいました。ペテロが魚を釣ると、その口の中から硬貨がみつかりました。その魚には、指の跡が黒い円形になって両面にひとつずつ残ったとされ、これがサン・ピエトロの由来になりました。
聖ペテロの名前がついているのはイタリアだけでなく、ドイツ語ではPetersfisch、フランス語ではSaint-Pierre、スペイン語ではpez de San Pedroと、ヨーロッパ圏では広い範囲でこの名前がつけられています。

イスラエル、ガリラヤ湖(提供:PhotoAC)
また、サン・ピエトロと似ている魚にセント・ピーターズ・フィッシュ(St. Peter’s fish)という名前の魚もいます。この魚は、言い伝えの舞台となったイスラエルのガリラヤ湖にすむ淡水魚、ティラピアの仲間です。聖書の記述などから、聖ペテロの釣った魚はこの魚なのではないかといわれ、名付けられたそうです。
地中海ではよく食べられている!和食にも◎
イエス・キリストとその弟子聖ペテロにまつわる言い伝えが名前の由来となったサン・ピエトロは、イタリアやフランスをはじめに、地中海でよく食べられている白身魚です。地中海料理として有名なムニエルはもちろん、ソテーやアクアパッツァなどにして楽しまれています。

白身魚のムニエル(提供:PhotoAC)
マトウダイはから揚げや煮つけなど、和食として味わうこともできます。日本では可食部が少ない、骨が入り組んでいて加工に向かないといった理由から、未利用魚として扱われることも多い魚ですが、マトウダイのヨーロッパ圏での名前とその由来を知ることで、以前より少し親しみのある魚になったのではないでしょうか。
マトウダイを手に入れる機会があれば、ぜひ和食だけでなく地中海料理として楽しんでみてくださいね。
(サカナト編集部)