カサゴ釣りの外道で釣れるベラは口が小さく歯が頑丈なことからエサ取りとして知られ、釣り人からは厄介者の扱いです。そんなベラたちですが、よく観察すると色々な種類がいて知れば知るほど面白い魚たちです。
今回は関東沿岸で釣れるベラたちを紹介します。
関東の堤防でよく釣れるベラは6種類
ベラ科の魚類は温帯・熱帯で繁栄した条鰭網のグループです。
浅海の岩礁や砂地に生息する種がほとんどですが、中にはアカボウやモンイトベラのように深場に生息する種も少数ながらいます。日本には146種程のベラ科魚類が生息しているとされ、南方では種類が多くなる傾向があります。
関東沿岸で釣れるベラ科魚類は多くはなく、ホシササノハベラ、アカササノハベラ、ニシキベラ、ホンベラ、キュウセン、オハグロベラの6種であることがほとんどです。
もちろんこれ以外にも釣れることはありますが、数は多くありません。
ベラは雄と雌で色や模様が異なる場合がある
ベラ科種類は色彩豊かな種が多く、色彩のパターンも種によって様々です。そのためベラ科の同定では色彩が重要な分類形質となります。
また、ベラ科魚類は雌と雄では色彩が異なることが知られており、一見別種に見えても実は同種であることもあります。
なお、ベラ科は成長に伴い雌から雄へと性転換する変わった生態を持った種も多くいます。
かつて同種だったホシササノハベラとアカササノハベラ
ホシササノハベラとアカササノハベラはどちらもササノハベラ属の魚であり、日本のササノハベラ属はこの2種のみが生息します。どちらも堤防や磯釣りで釣れるベラの筆頭であり、沿岸の岩礁に多く生息することから、釣り人ならば見たことがない人はいないのではないでしょうか。
2種は非常に似ており釣り人でも区別していない人も少なくはありません。
それもそのはず、この2種はかつて同種とされていました。1997年にホシササノハベラが新種記載され、従来ササノハベラとされていた種はアカササノハベラの新称が提唱されました。
一見して同じに見える2種ですが、特徴を覚えてしまえば簡単に識別することができます。大きな違いは眼下付近を通るラインが胸鰭基底へ向かうかどうかです。
ホシササノハベラの場合は胸鰭基底へ向かいませんが、アカササノハベラは胸鰭基底へ向かいます。また、2種は同所で見られることもしばしばありますが、アカササノハベラのほうがより深場に出現する傾向があります。
ちなみにどちらも味はよく、大きな個体は刺身や煮付けで食べると非常に良い味がします。カサゴ釣りの外道のイメージが強いですが、本命に負けず劣らずの味なので一度食べてみてはいかがでしょうか。
南国を彷彿とさせるニシキベラ
本種は南国を彷彿とさせる色鮮やかなニシキベラ属の魚です。
ニシキベラ属は日本に数種類生息しますが、関東の堤防や岩礁域で釣れるニシキベラ属の魚のほとんどが本種です。関東で釣れる他のベラ科魚類と比較すると色彩が非常に豊かであるため、他のベラとは容易に区別することができます。
また、本種は雌と雄で色彩が変わらないことも特徴の1つです。大きい個体は煮付けや刺身で食べることができますが、他のベラと比較するとやや味が劣ります。
“本”と付くのに知名度が低いホンベラ
標準和名に”本”と付く割には知名度の低いベラ科の1種です。本種は浅海の岩礁や砂地に生息する小型種であり、沖縄を除く下北半島以南に広く分布します。
ホンベラ属の魚もニシキベラ属同様に日本に数種類が生息しますが関東で見られるホンベ属は本種がほとんどです。
堤防釣りでよく釣られるものの小型種であることからか食用になることはほぼありません。本種は雄と雌で色彩が異なり、雌では地味な色合いですが雄ではオレンジと緑色が鮮やかな色彩になります。
瀬戸内海では遊漁船のターゲットにもなるキュウセン
キュウセンは北海道から九州までの砂底や岩礁に広く分布する中型のベラです。食用魚として広く知られており、食用のベラといえば本種を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
本種はキュウセン属に分類され本属の唯一の種となります。
雄と雌では色彩パターンが明瞭に異なり、雌型は赤っぽいことから”赤ベラ”、雄は青っぽいことから”青ベラ”とも呼ばれます。雌は体側中央に暗色線があることから他のベラ科魚類とは比較的区別しやすく、雄はホンベラにやや似ていますが、鰭に赤色班が散らばることから区別することができます。
瀬戸内海ではギザミと呼ばれており、遊漁船があるくらい人気の魚種です。煮付けやはぶて焼き(煮付けを焼いたもの)にして食べると美味しいです。
体高が高いオハグロベラ
オハグロベラはオハグロベラ属のベラであり、今まで紹介してきたベラ科魚類とは異なり体高が高いことが特徴です。
本種も雄と雌で色彩ご異なることが知られ雌は褐色ですが、雄では黒っぽい派手な色彩になります。たくさん釣れる魚ではありませんがこの魚も食べると非常に美味しいです。
近年まで日本のオハグロベラ属魚類は本種のみとされていましたが、2021年には国内からPteragogus enneacanthusの標本が得られキツネオハグロベラの標準和名が提唱されました。また、2022年にはタヌキオハグロベラが新種記載されたりとオハグロベラ属は最近ホットなグループです。
このように一口にベラと言っても、様々なベラが生息します。時には厄介な外道かもしれませんが、よく観察し知識を深めれば釣りがもっと楽しくなるでしょう。
(サカナト編集部)