淡水魚と聞いてどんな魚が思い浮かびますか? アユ、サケ、イワナ、ヤマメなどでしょうか。これらの魚、お刺身で食べる機会はあまりありません。
海水魚は刺身が普及しているのに、なぜ淡水魚は加熱して食べるのが一般的なのでしょうか。この記事では、淡水魚の生食が危険な理由と、生食の文化について紹介します。
淡水魚は寄生虫のリスクが高い
淡水魚の生食が危険だと言われている理由は、寄生虫の中毒リスクが高いからです。
淡水魚につく寄生虫のなかで最も知られているのが顎口虫(がっこうちゅう)。顎口虫は寄生する宿主を変えていく生物です。最終宿主がイヌ・ブタ・イノシシなどで、そこに至るまでの第2宿主に淡水魚を利用します。ヒトは中間宿主、あるいは待機宿主なので、口にすると寄生されてしまう可能性があります。
また、横川吸虫(よこがわきゅうちゅう)などほかの寄生虫のリスクもあります。寄生虫は加熱・冷凍で死滅するので、それらの処理をすることで安全に食べることができます。
海水魚にも有名な寄生虫であるアニサキスがいることがあります。こちらは中毒を起こすことはありますがリスクは低く、人間を宿主とすることはないため寄生することはありません。同じく有名なサナダムシも海水魚で中毒を起こすことがありますが、内服薬で治療が可能です。
どちらも肉眼で見つけて駆除することができ、淡水魚に寄生する寄生虫に比べるとリスクが低いです。また寄生虫がいることが少ない養殖魚についても海水魚のほうが広まっており、比較的安全に食べることができます。
淡水魚を生で食べる料理3選
寄生虫のリスクが高いとはいえ、川に近い地域では新鮮な淡水魚を生で食べられることも。淡水魚を生で食べる日本の郷土料理を3つ紹介します。
アユのせごし
まだ骨の柔らかい若アユを輪切りにしたお刺身です。からし酢味噌でさっぱりといただくことが多いです。
若アユは春から初夏にしか獲れないので、その時期にしか食べることのできない季節の料理です。日本酒と併せて季節の味を楽しむのがおすすめです。
新鮮なアユを使う必要があるので、川に近い料亭などで提供されることが多く、普段の生活ではなかなかみることのない料理です。
コイのあらい
あらいとは、そのまま生で食べる刺身とは違う調理法です。一度温水に身を入れ、身が硬くなったら水で冷やして〆る……厳密には生食とも異なる食べ方です。
冠婚葬祭や年末年始など、ハレの日のごちそうなどで食べられていたこともあるそう。コリコリとした弾力のある食感と酢味噌がマッチしてとても美味しいですよ。
コイは食用として養殖が広まっています。海水魚にも言えることですが、養殖の魚は寄生虫による中毒のリスクがグンと下がります。
ルイベ
サケやマスなどの魚を冷凍させてから、そのまま刺身にして食べる北海道の郷土料理ルイベ。アイヌ民族が発祥の料理といわれています。冷凍することで長期の保存が可能になるほか、寄生虫を死滅させ安全に食べることができます。
シャリシャリしたシャーベットのような食感と、口の中で次第に溶けていく身の味が独特で、北海道以外の人にも人気があります。軽く炙る食べ方や、生サケを浸けてから冷凍させたルイベ漬けなど、アレンジした食べ方も広まっています。
サーモンが生で食べられるのはなぜ?
回転寿司店やスーパーで見ることの多いサーモンは生で食べていますが、寄生虫の心配はないのでしょうか? 現在「サーモン」として流通するのは人の管理下で養殖されたアトランティックサーモン(タイセイヨウサケ)やトラウトサーモン(サーモントラウト/ニジマスを海で養殖したもの)などの魚で、寄生虫の心配がなく刺身で食べることができます。
しかし、サーモンだからといって安心することはできません。スーパーで「サーモン」を買うときには、生食用、刺身用といった表記があるかを確認する必要があります。
また、サケとサーモンは同じ魚では?という疑問を持つ方もいるかもしれません。「サーモン」はサケ・マス類の総称として使用されるケースが多いですが、元々「サケ」と呼ばれていたのはシロザケ。こちらは養殖が難しいことから、基本的に加熱処理したものしか食べることができないのです。
淡水魚の生食のリスクや、淡水魚を生で食べる郷土料理について紹介しました。淡水魚には美味しい料理がたくさんあります。淡水魚の独特の風味を味わいたい方は、生食用と書かれたものを購入するか、専門のお店へ行って楽しんでくださいね。
(サカナト編集部)