魚類の研究論文を見ると目につく小さな淡水魚、ゼブラフィッシュ。5センチほどの小さな魚ですが、なぜたくさんの研究に活用されているのでしょうか?
この記事では、ゼブラフィッシュがモデル生物として重要な理由や、最新の研究について解説します。
ゼブラフィッシュとはどんな魚?
ゼブラフィッシュはコイ目コイ科ダニオ属で、分類上はコイやキンギョに近い魚です。インド原産で、体長3~4センチほどの体と、透き通った体に黒色の縦縞模様が特徴。この縞模様がシマウマを思わせることからゼブラフィッシュという名前が付きました。
ゼブラ・ダニオとも呼ばれており、こちらは観賞魚として扱われる際の呼称として一般的で、ペットショップやアクアリウムショップで簡単に入手することができ、飼育も容易であることからアクアリウムファンにも人気の種です。
観賞魚として親しまれているゼブラフィッシュですが、この魚には観賞魚とは違う意外な一面があります。それは研究のモデル生物としてよく用いられていることです。
脊椎動物のモデル実験生物として扱われている
ゼブラフィッシュはさまざまな点で実験に適しており、よく用いられています。実験に用いられる理由として、飼育が容易で、1週間に1回、200個程度の卵を持つ多産であることが挙げられます。また世代交代の期間が2~3カ月と短く、これらの特徴は遺伝学の研究に適しています。
また、卵生であるため、母体の外で受精し産まれるため胚の観察が容易であることや、受精後24時間ほどでほぼ器官の形成が終わること、卵の中の幼生物である胚が透明で、発生の全期間にわたり、器官形成だけでなく細胞ひとつひとつを追跡することができるといった特徴から、実験を通して生物の発生を研究する実験発生学にも適しています。
これらの特徴から、ゼブラフィッシュの胚は遺伝子の注入や胚の操作を比較的簡単に行えます(ゼブラフィッシュ-遺伝学電子博物館)。
また、これまでに解読された脊椎動物の中で最も遺伝子数が多く、ヒトとゼブラフィッシュのゲノムを比較すると、ヒトの遺伝子のうち70%がゼブラフィッシュの遺伝子と似通っていることが明らかになっています(遺伝:ゼブラフィッシュのゲノム解読-nature)。この観点から、医学医療の研究にも活用されています。
ゼブラフィッシュ胚で顔面奇形が誘発される過程を追跡
2023年9月、東京大学院理学系研究科の研究チームは花王株式会社との共同研究により、ゼブラフィッシュ胚で顔面奇形が誘発される過程を追跡、原因を特定することに成功しました。
ゼブラフィッシュに、マウスやヒトで顔面奇形を起こすことが既に分かっている5つの化学物質を胚に投与すると、すべての物質について、ヒトやマウスと同じく上顎の骨の分岐(口蓋裂)や下顎の骨の矮小化(小顎症)等の奇形の発生が確認できました。
ゼブラフィッシュでも奇形が発生することが確認できたので、次にを顔面をつくる細胞を蛍光タンパク質で光らせ、奇形が引き起こされる過程を胚の発生を通して可視化。これにより、どのように顔面奇形が誘発されるのかを追跡することに成功しました。結果、奇形を起こす化学物質は胚の発生初期に顔面をつくる細胞の移動を妨げていたそうです。
この実験を通して、化学物質の催奇形性(妊婦が薬物を使用した際に、胎児に奇形を生じさせうるリスクのこと)について、マウスなどの哺乳類を使わず短時間で調べる道筋が開かれました(顔面奇形がつくられる過程をゼブラフィッシュ胚で追跡-東京大学大学院理学系研究科・理学部)。
ゼブラフィッシュは、私たちとは似ても似つかない小さな魚です。しかし、各種研究や医療研究を通して役に立っているとても身近な存在でもあります。今後もこの小さな魚の大きな功績に期待したいですね。
(サカナト編集部)