私が最初に「スクミリンゴガイ」という名前を知ったのは、子どもの絵本がきっかけでした。
一方、実物を初めて見たのは、近所の田んぼのあぜ道を歩いていたとき。何か派手な蛍光ピンクが目に飛び込んできて、「えっ、誰か駄菓子でも田んぼに落としたのかな?」と思ったんです。
よくよく見ると、それは「ジャンボタニシ」とも呼ばれるスクミリンゴガイの卵。あまりに衝撃的なビジュアルに、しばらくその場に立ち止まってしまったのです。
スクミリンゴガイとは?

スクミリンゴガイは南米原産の大型の淡水巻貝で、殻の高さは5~8センチにもなります。水生の巻貝というよりカタツムリに近いサイズ感ですね。昨今はジャンボタニシとも呼ばれています。
名前の「リンゴガイ」は、その形がリンゴに似ていることが由来。淡水の環境で生きていて、日本でも田んぼや水路、池などでよく見かけます。
何よりも印象的なのが、ショッキングピンク色の卵です。
稲の茎や護岸の壁など、水面より少し上のところにびっしり産みつけられていて、一度見たら忘れられないビジュアル。しかも1つの卵塊には200?300個もの卵が入っているそうで、シーズン中に何千個も産むこともあるとか…。
「そりゃ田んぼ中がピンクになるはずだ」と思いました。
実は食用として入ってきた巻貝
実はこのスクミリンゴガイ、れっきとした外来種です。日本には1980年代に「食用目的」で持ち込まれました。
南米や東南アジアの一部の国では、普通に食卓に並ぶこともあるらしく、日本でも当初は「新たなタンパク源になるかもしれない」と期待されていたようです。
ただ、実際にはあまり普及しませんでした。理由はいろいろありますが、味や調理の難しさ、寄生虫のリスクなどが影響したようです。
私自身、「食べられるよ」と言われても、やはりあのビジュアルを思い浮かべるとちょっと遠慮したくなります。
フランス料理などでは「エスカルゴ」が有名ですが、やはり日本人にはカタツムリのイメージが強すぎるのでしょうか。
米農家を悩ませるスクミリンゴガイの食害

スクミリンゴガイの需要が減っていくなかで、管理が追いつかずに養殖場から逃げ出した個体が野生化。今ではすっかり外来生物として、日本各地に広がってしまいました。
スクミリンゴガイが問題視されているのは、生態系の破壊より稲作に対する食害です。強い繁殖力と旺盛な食欲により、米農家の人々を悩ます存在となっているのです。
スクミリンゴガイは田植え直後の柔らかい稲の苗が大好物。食害にあった水田は食べられた部分だけ稲のない状態になってしまいます。
せっかく植えた苗が丸ごと食べられてしまい、農家の方々にとっては大きな損失になります。

では、「田んぼの水を抜かれた後はどう過ごしているのか」というと、気温が14℃以下になると休眠状態になり、土の中で越冬するというのです。
もともと温暖な地域に生息する生き物なので、越冬できるのは関東以南の比較的温暖な地域に限られています。それでも暖冬といわれる年には、多くのスクミリンゴガイが地中で眠っているということになります。
悲しいかな、スクミリンゴガイの生態は日本の稲作のサイクルとぴったりの相性だったのですね。駆除しても駆除しても田植えの時期に湧いて出てくる……そんな悩ましい生物です。
スクミリンゴガイの食害に関しては、農林水産省も情報を拡散しています。
スクミリンゴガイの対策と付き合い方
そんな手ごわいスクミリンゴガイですが、石灰窒素を散布したり、冬の間にトラクターなどで物理的に土を粉砕するというような被害対策が取られています。いずれも農家の人々には大きな負担となりますが、被害を広げないためにも日夜努力されている方々がいるということです。
もともとは「人の暮らしに役立つかも」と思って連れてこられたのに、皮肉にも自然や農業を脅かす存在になってしまった……。そんな背景を知ると、少し切ない気持ちにもなります。
ちなみに成貝は手で捕まえることも可能ですが、素手で捕まえてはいけません。寄生虫のリスクがあるので、手袋を使い、作業後はしっかり手洗いをすることが大切です。
スクミリンゴガイは、その見た目のインパクトや繁殖力の強さで、なかなか忘れられない存在です。私自身、初めて見たときの衝撃はいまでも鮮明に覚えています。でも、知れば知るほど「どうしてこうなったのか」「どう付き合っていくべきか」を考えさせられる存在でもあります。
私たちの身近な田んぼや水路にも、ひっそりと暮らしている彼ら。脅威であると同時に、生きものとしての生命力も感じます。だからこそ、正しく知って、うまく向き合っていくことが大事なんだなと、つくづく思います。
(サカナトライター:halハルカ)