本物の生き物が必要な理由
昨今、世界的な動物愛護の高まりなどにより、水族館においても本物の生き物を展示するのではなく、「映像展示」や「プロジェクションマッピング」などによる代替展示も増えてきています。映像展示があれば、本物の生き物展示はいらないという意見も存在します。
しかし、本記事で紹介した研究内容に照らし合わせて考えれば、「本物の生き物」がいないと「生物認知専門領域」は活性化しません。「物体(映像展示)」には別の脳の認知専門領域があるためです。
仮に映像展示で「生物認知専門領域」が活性化したとしても、それは明治時代から現在に至るまで水族館や動物園が当たり前に存在し、そして大衆へ「本物の生き物」を提供してきた功績があるためです。
これから生まれてくる世代が「本物の生き物」を知らずに映像展示を見ても、「生物認知専門領域」が活性化されることはないと考えられます。
すなわち、映像展示の生き物をファンタジーの世界の生き物と認識したり、そうでなくとも、生き物を知識としてしか認識できず、実感できなくなる恐れがあります。
これらを踏まえると、「映像展示」や「プロジェクションマッピング」は素晴らしい展示ですが、「本物」への当たり前の認識があるからこそ成り立つ展示だともいえるのではないでしょうか。

このような点から考えても、水族館や動物園において本物の生き物を展示する意味はあると言えます。
日々の仕事や身体的な問題などで、なかなか自然に赴いて生き物を見ることは厳しい。そんな人々でも手軽に「生物認知専門領域」を刺激し、生き物を「知る」ことができるのが、水族館や動物園なのです。
水族館や動物園で本物の生き物を見られるという「当たり前」が如何に大切なことか。そうした側面を理解しながら園館を訪れると、また違った視点で展示を見られるかもしれませんね。
(サカナトライター:みのり)
参考書籍
アンデシュ・ハンセン、久山葉子(2020)、スマホ脳、新潮社
アンデシュ・ハンセン、久山葉子(2022)、ストレス脳、新潮社
小林朋道(2018)、先生、脳のなかで自然が叫んでいます![鳥取環境大学]の森の人間動物行動学、築地書館