季節的に長距離移動をする鰭脚類のキタオットセイ。
本種は毎年秋に繁殖地から南下し、冬の採餌海域へと向かい、翌年4月には繁殖地へ戻ります。このような季節的な移動により、冬は海氷を避け餌が豊富な海域で過ごし、次の繁殖期に向けてエネルギーを蓄えることができるのです。
一方、キタオットセイは北海道日本海沿岸でも目撃例が増加しており、沿岸漁業への被害も報告されています。そのため、冬季における本種の生息地などを把握することは、適切な管理・保全をする上で重要な情報だといいます。
そうした中、京都大学の李何萍氏と三谷曜子教授らから成る研究グループは、キタオットセイに衛星発信機を装着して移動経路などを調査。本種の北上回遊と海洋環境の関係を明らかにしました。
この研究成果は『Deep-Sea Research Part I』に掲載されています(論文タイトル:Northbound Movement of Northern Fur Seal ( Callorhinus ursinus) and their Response to the Oceanographic Features)。
キタオットセイ
キタオットセイ Callorhinus ursinus は四肢が鰭状になった哺乳類で、アザラシやアシカなどとともに鰭脚類(ききゃくるい)に分類される生物です。
本種は毎年10月~11月になると繁殖地を離れ南下。冬の採餌海域へ向かい翌年の3月~4月に繫殖地へ戻ることが知られています。
このような季節的な移動を行うことにより、冬季は海氷を回避し餌が豊富な海域で効率的に餌を取り、次の繁殖期に向けたエネルギーを蓄えることができるのです。
一方で、北海道の日本海沿岸では、キタオットセイの目撃例が増加しているほか、沿岸漁業にも被害が出ているといいます。
そのため、冬季におけるキタオットセイの移動経路および生息域の把握は、適切な管理・保全をする上で非常に重要となるデータです。
キタオットセイに衛星発信器を装着
今回の研究では2017年~2020年に北海道日本海沿岸松前沖にて、キタオットセイの若齢のオス個体に衛星発信器を装着。繁殖地へ向かう北上回遊中の移動経路、移動中の海洋環境への行動的応答が調査されました。

なお、使用された衛星発信器は位置情報のみを記録しデータは Argosシステムを介して送信。衛星発信器はキタオットセイの換毛期には自然に脱落するようになっています。
長距離移動のエネルギー消費を抑制
追跡したキタオットセイ5個体のうち4個体は繁殖地に到達したものの、1個体は三陸沖にて発信が停止。衛星発信器により判明した移動経路によると、コマンダー諸島に2個体、千島列島とプリブロフ諸島に1個体ずつ到達していたことがわかっています。
また、行動パターンが回遊期間により異なることも明らかになりました。特に北緯43度以南に滞在する「滞留期」では移動速度が遅く、進行方向の変化が頻繁であった一方、北緯43度以北で移動する「北上期」では移動速度が速く、進行方向は直進的だったのです。
加えて、追跡期間中の行動と海洋環境の関係を解析した結果では、大陸棚縁辺部や水温8~13度の海域で若齢オス個体の採餌行動が多く観察されました。このことから、餌となる魚が大陸棚縁辺部に集中し、水温の条件よりキタオットセイが魚が豊富な黒潮ー親潮移行域を利用していると考えられています。
また、北上回遊中において、高気圧性渦の縁辺部を利用して移動している傾向も見出されました。これらの場合、流速が速いため長距離移動に使うエネルギーを節約できることが示唆されたのです。
長期的なモニタリングも必要
今回の研究により北海道日本海沿岸で越冬する若齢のキタオットセイ(オス)の北上回遊移動と、移動中の海洋環境に対する行動的応答が明らかになりました。
この成果は北海道日本海沿岸におけるキタオットセイの生態的役割を解明する上で重要な知見となったのです。また、環境変化がキタオットセイに与える影響などを解明するために長期的なモニタリングが必要とされています。
(サカナト編集部)