現代ではおしゃれやファッションの目的でひげを生やすことが多いようですが、人以外にも「ヒゲ」を持つ生きものはたくさんいます。
魚もそのうちの一つ。
この記事では、魚をはじめ、水中で生活する生きもののヒゲについて紹介します。
鰭脚類(ききゃくるい)では敏感なセンサーの役割
陸上・水中を問わず、哺乳類ではヒゲをもつ生物がほとんどです。海棲哺乳類でいうと、ハクジラと呼ばれるグループ以外の哺乳類では、基本的には一生涯ヒゲが生えています。
特に鰭脚類の口元に生えているヒゲは、感覚毛と呼ばれます。諸説ありますが、自然界では魚が泳いでできる水流を感知するセンサーの役割をしているのではないかと考えられています。
アシカが鼻先に器用にボールを乗せることができるのも、この感覚毛が敏感だからです。
また水族館で飼育する目が見えなくなったアザラシなどは、感覚毛を使うことでトレーナーが出す複数種類のハンドサインを判別していることがあり、かなり優れた感覚をもっているようです。
ヒゲクジラでは餌を濾しとるろ過器官
クジラ目の中のヒゲクジラと呼ばれるグループにもヒゲが生えています。クジラ目は大きく分けると、ヒゲクジラ亜目とハクジラ亜目の2つのグループがあります。
ヒゲクジラ亜目には、ザトウクジラや世界最大のシロナガスクジラなど、一般的にクジラといわれて思い浮かべるような種が属しています。名前の由来となっている“クジラヒゲ”と呼ばれるケラチン質が口の中に生えており、餌となる魚やプランクトンを濾しとる<ろ過器官>の役割をしています。
一方で、ハクジラ亜目には口の中に歯が生えており、水族館でおなじみのハンドウイルカやカマイルカがこのグループにあたります。
基本的に、ハクジラ亜目にはヒゲは生えていません。しかし、実は生まれて数日間だけ上顎の表面に感覚毛が数本生えているのです。
このヒゲは一週間ほどで抜け落ちてしまうため、なかなかお目にかかれません。見たことがあるという人も少ないのでないでしょうか。ヒゲが生えていた痕は残っていることが多く、上顎に点々と白い痕が見られることがあります。
水族館でイルカが近くに来た際には、ぜひよく観察してみてください。
魚はヒゲで味を感じる?
魚でも、ヒゲが生えている種は少なくありません。
例えば、ナマズ目やコイ目などはヒゲが特徴的であり、種を同定するときにもヒゲが手がかりとなります。
魚が持つヒゲの多くは私たちの舌に存在する味蕾(味を感じる器官)があり、味覚やセンサーの役割をしているといわれています。このヒゲを使って、ヒゲを持つ魚たちは餌を探索していると考えられています。
しかし、深海に生息するホテイエソ科の魚には、ヒゲの先端に発光器をもつ種がおり、この場合は、発光器を光らせることで餌生物をおびきよせたり、点滅させることで仲間とコミュニケーションをとったりしていると考えられています。
ヒゲが名前の由来になった魚たち
魚の中には特徴的なヒゲを持つことから、名前がつけられた魚がいます。
例えば、スズキ目ヒメジ科オジサンは、下顎に生えているヒゲが由来となったといわれています。ヒメジ科の魚は、みんな1対のヒゲが生えているにもかかわらず、メスだろうが子どもだろうが「オジサン」と呼ばれるのは少し気の毒な気がしてしまいます。
ちなみに、標準和名でオジサンと呼ばれるのは本種のみですが、ウミヒゴイ属の魚も“おじさん”と呼ばれることがあるようです。
他にもヒゲが名前の由来になった魚にヒゲダイがいます。
ヒゲダイはスズキ目イサキ科ヒゲダイ属の魚で、下顎に白いヒゲが密生しています。ヒゲダイ属の魚には下顎にヒゲが生えていますが、中でも一番ヒゲが目立つ魚です。
同じヒゲダイ属にヒゲソリダイという種類もいますが、下顎のヒゲが痕跡的です。ヒゲダイとヒゲソリダイ、見たままなのでわかりやすいですね。
【番外編】ヒゲじゃないけど“ヒゲ”とつく魚
魚の中には、皮弁(皮膚が変化して突起状になったもの)がヒゲのように見えることから、名前にヒゲとつくものもいます。ヒゲハギやイトヒゲモジャハゼです。
ヒゲハギは全身の体表に多数の皮弁があり、海藻にまぎれて身を隠すための擬態の役割をしているといわれています。イトヒゲモジャハゼのヒゲ(皮弁)の役割は詳しいことがわかっていませんが、頭部に糸状の細長いヒゲのような突起がもじゃもじゃと生えており、魚らしからぬユニークな見た目をしています。
人間では、生きるのに必ずしも必要ではないヒゲですが、水中で生活する生きものたちにとってのヒゲはそれぞれ重要な役割を果たしているのです。
(サカナト編集部)