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<世界の淡水魚回遊が崩壊の危機>325種が国際的保全の候補に ボン条約が警鐘鳴らす

ボン条約(移動性野生動物の保全に関する条約=CMS)は、世界の河川で行われている淡水魚の大規模な回遊が急速に崩壊しつつあるとする初の包括的評価「Global Assessment of Migratory Freshwater Fishes(回遊性淡水魚類アセスメント)」を公表しました。

河川生態系の健全性を支え、内水面漁業と何億人もの暮らしを支えてきた回遊性淡水魚は、現在もっとも絶滅の危機に瀕した野生生物群の一つとなっていると警鐘を鳴らしています。

本評価はアマゾン川やメコン川といった巨大河川が主な舞台ですが、ダムや河川改変による回遊ルートの断絶という問題は、日本のアユやサケ、ウナギなどにも共通する課題であり、“対岸の火事”ではありません。

移動性野生動物の保全が目的の国際条約

ボン条約(CMS)は、1979年にドイツ・ボンで採択、1983年に発効。国境を越えて移動する渡り鳥や海洋哺乳類、今回の対象である回遊性淡水魚などの野生動物を保全するための国際条約です。

世界で100か国以上が批准していますが、日本は2026年4月現在で批准していません。

CMS評価が示す“危機の実態”

報告書では、国境を越えて河川を回遊する淡水魚325種を、CMSの国際的な保全措置の候補種として特定しました。

これらは、すでに付属書I・IIに掲載されている24種を大きく上回る規模であり、これまで見過ごされてきた「淡水の生物多様性危機」が世界の共有河川流域で進行していることを示しています。

ナイル川(提供:PhotoAC)

地域別ではアジアが205種と最多で、南米55種、アフリカ42種、欧州50種、北米32種など、全大陸にわたり保全が急がれる状況です。

回遊性淡水魚の保全ニーズを整理

CMSの科学専門家は、約1万5000種の淡水魚に対するIUCNレッドリスト評価などの膨大なデータセットを解析し、回遊性淡水魚の保全ニーズを整理しました。

その結果、ダム建設や河川の分断、汚染、乱獲、気候変動に伴う生態系変化などが、回遊ルートを断ち切り、個体群の急激な減少を招いていると結論づけています。

1970年以降、回遊性淡水魚個体群は世界全体で約81%減少しており、CMSに既に掲載されている回遊性魚類58種のうち97%が絶滅危惧と評価されています。

優先流域と求められる国際協調

報告書は、緊急の対策が必要な優先流域として、南米のアマゾン川およびラプラタ–パラナ川、欧州のドナウ川、アジアのメコン川、アフリカのナイル川、インド・バングラデシュを流れるガンジス–ブラフマプトラ川を挙げています。

いずれも複数国にまたがる巨大な河川であり、回遊魚の保全は一国単位ではなく、流域全体を視野に入れた国際協調なしには実現できないと強調しています。

メコン川(提供:PhotoAC)

具体的な行動手段としては、回遊回廊と環境流量(エコフロー)の確保、流域スケールのアクションプランと越境モニタリング、季節性を踏まえた協調的な漁業管理などが提示されています。

世界には250を超える国境をまたぐ河川・湖沼が存在し、地表の約47%が共有流域に含まれることから、淡水魚の回遊を守ることは、流域を接続した「一つの生態系」として扱う水管理への転換も意味します。

COP15開催地ブラジルで進む具体的な提案

今回の評価は、ブラジルで開催中のCMS第15回締約国会議(COP15)に合わせて発表。開催国ブラジルは、アマゾン川とラプラタ–パラナ川という南米最大級の河川システムを対象に、複数の保全措置を提案しています。

アマゾン流域は、回遊性淡水魚の最後の大規模な拠点の一つとされる一方で、開発圧の高まりによりその地位が脅かされています。

新たに示されたケーススタディでは、アマゾンでのCMS付属書II掲載候補種として20種の回遊魚を特定し、これらが地域の漁獲量の約93%を占め、年間約4億3,600万米ドル規模の漁業価値を支えていると試算しています。

候補種の一つであるドラードキャットフィッシュBrachyplatystoma rousseauxii)は、金属光沢の体色と最大2メートルに達する大型魚として知られ、アンデス山脈の源流から沿岸の育成場まで約1万〜1万1000キロにおよぶ、淡水魚として世界最長級の回遊を行うことで注目されています。

ブラジルなど関係国は、このドラードキャットフィッシュを含むアマゾン回遊ナマズ類を対象にした2026〜2036年の「複数種行動計画」の策定を目指しており、ラプラタ流域ではスポッテッドソルビムナマズPseudoplatystoma corruscans)の付属書II掲載提案も進められています。

「見えない危機」をどう食い止めるか

CMS事務局は、「淡水生態系にすむ動物の個体群は、陸上や海洋よりも速いペースで減少しているにもかかわらず、その多くは水面下で進行する“見えない危機”として十分に認識されてこなかった」と指摘します。

報告書は、回遊魚の保全には、分断された国内河川という発想から脱却し、国境を越えて連結した河川システムとして管理するという「一つの根本的な解決策」が鍵になると結論づけています。

CMSはCOP15を通じて、科学、政策、国際協力を結び付けることで、残された淡水魚の大回遊と、それに依存する地域社会・生態系を守る枠組みづくりを各国に呼びかけています。

今後、各国政府がどこまで具体的な行動計画と資金投入に踏み込めるかが、「淡水の大回遊」を次世代につなげられるかどうかの分かれ目となりそうです。

(サカナト編集部)

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サカナト編集部

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