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典型的な貝殻とは異なる構造? <カイダコ類>は2つの方法で殻を修復していることが判明

浮遊性のタコである「カイダコ類」。アンモナイトやオウムガイを彷彿とさせる外見は、古くから研究者たちから関心を集めてきました。

その一方で、カイダコの殻の構造や形成については謎に包まれていました。

そうした中、和歌山工業高等専門学校生物応用化学科のスティアマルガ デフィン 准教授を中心とした研究グループは、カイダコ類における貝殻の形成過程と進化的意義を明らかにしました。

この研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:Microstructural insights into the functional morphology and formation logic of spherulitic–fibrous prismatic architecture in the shell–like eggcase of the argonaut octopods)。

殻を持つタコ「カイダコ」

タコブネやアオイガイといった浮遊性のタコは「カイダコ(貝蛸類)」と呼ばれており、卵鞘を持つことが大きな特徴です。

タコブネ(提供:PhotoAC)

カイダコ類の最古の記録は約2000年前のアリストテレスの著書「動物誌」まで遡るといいます。

この「動物誌」では、タコが腕を帆や舵のように使い殻を操る様子が記されており、当時、ヤドカリのように他の生物の殻を利用していると考えられていたそうです。

タコ自身が殻を形成?

時は流れ19世紀前半、女性博物学者ジャンヌ・ヴィルプルー=パワーは、この卵鞘について飼育実験を行い、これがタコ自身の腕によって形成されることを観察しました。

彼女は、このほかにも「第一腕を切除すると殻が形成されないこと」「殻の一部を破損させても第一腕で破片をかき集めて修復すること」を確認。このことから、殻は他の生き物からの借り物ではなく、自身で形成していることが分かったのです。

このことは、当時の考えを変えるものであり、大きな反響が呼んだといいます。

カイダコ類の研究

カイダコの殻は、軟体動物の貝殻と同様に体の外に形成される構造です。

この殻は浮力調整や繁殖といった機能を通し、個体の適応に大きく関わることから、「延長された表現型」と見なされています。

一方、カイダコの殻の構造や形成についての研究はほとんど進んでおらず、実態は謎に包まれていました。

日本の採取されるカイダコ類

日本では漂流したカイダコ類が海岸に打ち上げられたり、漁業で混獲されることが知られています。

このことから、研究グループは日本だからこそ、カイダコ類の研究できるのではと考えたといいます。研究グループはこれまで、遺伝子やゲノム、タンパク質の解析を行い、生物多様性や生体鉱物作用について研究を実施。

カイダコの殻が軟体動物の典型的な殻とは異なる構造を持つことを明らかにしてきました。

典型的な軟体動物の貝殻と異なる構造

今回の研究では、日本近海で採取したカイダコ2種の新鮮な殻について、微細構造解析を実施。殻がどのようにして形成されるのか調査しました。

これは、かつてヴィルプルー=パワーが検証した内容を、現代自然史科学の方法と視点から検証したものとなっているといいます。

調査の結果、カイダコ類の殻は5層からなる構造を持つことが明らかになっています。

さらに、2つの結晶層が中央の有機層から両側に向かって成長するといった特徴も判明。一般的な貝殻に見られる内側へ一方向に成長する構造と根本的に異なり、ヴィルプルー=パワーの観察を形態学的観点から再検討する手掛かりにもなったようです。

2つの方法で殻を修復

研究では、一度割れて修復されたアオイガイの殻も分析されています。

その結果、カイダコ類は2つの方法で壊れた殻を修復していることが判明しました。

まず、カイダコ類は腕で破片を集め、パズルのように修復。しかし、これでは壊れた部分を完全に塞ぐことができません。そこで、カイダコ類は新たな分泌物を出して内側から沈着させ穴を埋めていたのです。

つまり、カイダコ類は「腕を使い破片をつなぎ合わせる方法」「新たな分泌物で再構築する方法」の2つの方法を組み合わせた修復能力を持つことが明らかになりました。

この結果から、カイダコの殻は見た目こそ貝殻に似ているものの、構造や形成過程は異なり、外洋に適応するために独自の進化で獲得された延長された表現型であることが示されたのです。

生物の進化の理解にも貢献

今回の研究によって、カイダコ類が殻を他の生物から借りるのではなく、自身で形成していること、殻の修復は2つの方法を組み合わせていることが明らかになりました。

今後は、このような構造がどのようして作られるのか、この形と機能がどう結びついているのか、それらを解明することで、生物が多様な構造をどのように進化させてきたのか、その理解がさらに進むことが期待されています。

(サカナト編集部)

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