化石動物が何を食べていたのかを明らかにすることは、その動物の生態や進化史を明らかにするために極めて重要とされています。
食性の推定は歯や顎の形態に基づいて行われるのが一般的ですが、たとえばジャイアントパンダのように形態が似ている場合も食性が大きく異なる例が知られており、形態情報だけでは食性を確定できないこともあるといいます。
そうした中、足寄動物化石博物館学芸員(北海道大学総合博物館・資料部研究員兼任)の新村龍也氏と北海道大学大学院理学研究院の沢田健教授の研究グループは、博物館に収蔵されたカイギュウ類の骨化石を有機地球化学的手法で分析し、脂質の同位体比から食性を推定しました。
この研究の成果は「 Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology」に掲載されています(論文タイトル:Paleodietary analysis based on stable carbon isotope ratios of lipids preserved in sirenian fossil bones from Hokkaido, Japan)。
化石から食性を読み解く
化石動物の食性を理解することは、動物の生態や進化史において非常に重要です。
一般的に、食性の推定には歯や顎の形状に基づき行われますが、形状が似ていても食性がことなる例も知れています。そのため、形状だけでは食性を確定できない場合もあるといいます。
元素の情報で推定も難しい
より直接的な手法として、体組織中の安定同位体比を分析する方法があります。これは動物の体を構成する元素は食べたものに由来するため、それを調べて食性を明らかにする手法です。
しかし、この手法にも課題があるようです。というのも、化石動物の骨は通常、化石化の過程で外部から様々な成分が入り込んでくるため、同位体を測定できても動物由来かどうか断定することは難しいといいます。
そこで、研究チームは比較的に保存されやすい「脂質」に着目し、その安定炭素同位体比から食性の解析に挑戦しました。
1000万年前の化石を分析
対象となったのは北海道産の約1000万年前の地層が産出したカイギュウ類3種(ショサンベツカイギュウ、ヌマタカイギュウ、タキカワカイギュウ)の骨化石です。カイギュウ類は、骨の内部に動物由来の成分が保存されやすいと考えられています。
まず、骨化石から脂質の検出が行われました。このステロイドについては有機分子組成から、カイギュウが生きているときに自ら合成したものと確認されています。
次に、その安定炭素同位比を分析し食性を復元。さらに、ステロイドの安定炭素同位体比から食性が判別できるかどうか確かめるために、現生するカイギュウの骨試料の分析も行われています。
2つの食性が見出される
分析の結果、ショサンベツカイギュウは主にアマモ類のような海草を食べていたこと、ヌマタカイギュウとタキカワカイギュウは主にケルプ類のような海藻を食べていたことが判明しました。
アマモ(提供:PhotoAC)これは、従来考えられてきたカイギュウ類の絶滅種における分類学的位置や進化過程と調和的な結果となったといいます。
他の海棲哺乳類にも応用
今回の研究によって、分析したカイギュウ絶滅種がアマモ食とケルプ食に分けられること明らかになりました。
約1000万年前の地層から産出したカイギュウの骨化石に保存された脂質を用いた食性復元は世界初。ステロイド中の安定炭素同位体を用いた手法は他の海棲哺乳類化石への応用が期待されています。
(サカナト編集部)