鴨川フィッシャリーナ(千葉県鴨川市)で、海の生態系回復を目指す新たな取り組みが動き出しました。
山形県鶴岡市に本社を置く株式会社環境内水面資源研究所は3月25日、再生素材を活用した環境配慮型人工魚礁「有機体ブロック」を海中に設置し、藻場の再生と生物多様性の回復に向けた実証実験を開始しました。
鴨川市漁業協同組合やマリーナ事業者らと連携し、「人の利用」と「自然の再生」の両立を探るモデルケースとして注目されています。
「磯焼け」が広げる海の“砂漠化”
近年、日本各地の沿岸で、海藻が消失する「磯焼け」が深刻化しています。
稚魚や稚貝の隠れ家・産卵場所として機能してきた海藻の森が失われることで、海の食物連鎖を支える土台そのものが崩れ、漁獲量の減少や沿岸漁業の衰退にもつながっています。
また、海藻は二酸化炭素を吸収・固定する「ブルーカーボン」としての役割も担っており、その喪失は気候変動対策の観点からも見過ごせない課題です。磯焼けが進行すると、このブルーカーボンも失われてしまいます。
水産庁などの調査では、藻場の衰退を報告する都道府県が全国の約8割に達し、鴨川周辺の海も例外ではないとされています。
再生素材でつくる「生きたブロック」とは
今回、鴨川フィッシャリーナに設置された「有機体ブロック」は、一見するとコンクリートブロックのような外観を持つものの、普通のコンクリートブロックとは中身・役割が大きく異なる人工構造物です。
有機体ブロック(提供:株式会社環境内水面資源研究所)有機質成分や再生土壌といったリサイクル材を用い、微生物や海藻が付着・定着しやすい形状や質感、構造に設計されていることが特徴。「役目を終えた後は環境へと還る」というコンセプトを掲げた、循環型の魚礁ブロックです。
時間の経過とともにゆるやかに分解・変化し、最終的には砂状成分や無機栄養塩として海の物質循環に組み込まれていくといい、環境内水面資源研究所が山形県酒田港で実施した先行実証では、設置から約2カ月で藻類(珪藻類)やフジツボの定着が確認されたそうです。
密度が高く、生い茂る藻場 投入から892日経過(提供:株式会社環境内水面資源研究所)また、翌年には自然着生した牡蠣やメジナ、イシダイ、アジなどの魚群を観察。設置から約2年半が経過した現在では、ブロック周辺に海藻が生い茂る景観が広がり、“生き物が戻る海”の実証が進んでいるといいます。
観光マリーナから生まれる「鴨川モデル」
千葉県鴨川市は、豊かな自然と漁業に支えられてきた海辺のまちであり、観光客が訪れるマリーナもあります。
酒田港の事例が港湾という産業空間での取り組みであったのに対し、鴨川フィッシャリーナは「人と海が交わる場」として、利用者の目にも触れやすい場所であることから、新たな挑戦になっているといいます。
同社は、地元漁協やマリーナ事業者、研究者と一体となって、「人の利用と自然の再生は両立できるのか」という問いに向き合いながら、沿岸施設の新たな利活用モデルを提示する狙いです。 将来的には、こうした取り組みを「リジェネラティブ(再生型)な鴨川モデル」として全国の沿岸施設へ展開していく構想も示しています。
魚礁の蝟集(いしゅう)効果 メジナ、イシダイ、アジなど(提供:株式会社環境内水面資源研究所)今回の実証では、海藻や付着生物がどの程度の種類・数・速度で定着するのか、どのような魚が集まるのかといった蝟集(いしゅう)効果、さらに害魚とされるアイゴやイスズミの天敵であるアオリイカの増加が期待できるかなどを継続的にモニタリング。通常のコンクリート構造物と比べた生態系への有効性や、ブロックが分解されるまでの期間、生態系回復モデルとして成立するかどうかも評価項目に含まれています。
「循環・効率・共創」で描く沿岸の未来
環境内水面資源研究所は、今回の鴨川での設置を「有機体ブロック」の本格展開に向けた第一歩と位置づけています。
今後は、藻場造成や磯焼け対策、牡蠣養殖との組み合わせ、沿岸の生態系保全など多様な現場での活用を視野に入れていて、地域ごとの地形や潮流に応じた設計に加え、その土地で生まれる素材を活かした“地産地消のブロック”の開発にも取り組む方針です。
国内での普及のみならず、海外海域への応用も見据えているといい、「循環・効率・共創」をキーワードに、人と海が長く共存できる沿岸環境の実現を目標としています。
鴨川フィッシャリーナの海中に沈んだ小さなブロックが、海を再び「ゆりかご」へと変えていく循環のはじまりとなるのか、その行方が注目されます。
(サカナト編集部)