北海道と青森県の一部に生息するニホンザリガニは日本で唯一の在来ザリガニです。
本種は開発や外来種のウチダザリガニが侵入したことにより、各地で個体数が減少。環境省のレッドリストでは絶滅危惧 II 類に指定されています。
一方、ニホンザリガニに関する調査は、人がアクセスしやすい場所に集中しており、人活動の影響が少ない環境での生息状況は分かっていませんでした。
そうした中で、北海道大学とパシフィックコンサルタンツ株式会社、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の共同研究グループは、環境アセスメント調査データを活用し、ニホンザリガニの生息環境を明らかにしました。
ニホンザリガニは綺麗な冷水が流れる場所に生息
ニホンザリガニ Cambaroides japonicus は、北海道と青森県の一部に分布する日本固有種で、綺麗な冷水が流れる小河川や湖沼に生息しています。
本種は日本で唯一の在来ザリガニであると同時に、北半球のザリガニ類の中でも古い系統に属することが知られており、進化史や生物地理を理解するうえで重要な存在です。
ニホンザリガニ(提供:PhotoAC)しかし近年は、河川改修などに伴う生息環境の悪化や、外来種のウチダザリガニの侵入により個体数が減少してしまいました。
ニホンザリガニ本来の生息状況は?
一方、これまでに実施されてきたニホンザリガニの分布調査は、アクセスしやすい場所に偏っていたといいます。
ニホンザリガニの主な生息場所である河川源頭部は、山間部に無数にある小さな沢。こういった人がほとんど立ち入らない奥地を含め、広域にニホンザリガニの分布調査をすることは、非常に困難とされています。
そうした中で、今回の研究では北海道新幹線建設に伴い行われた環境アセスメント調査に着目しました。
747地点の調査データを活用
環境アセスメント調査では、建設予定区間沿線200キロにわたり、小さな沢まで網羅的に調べられているといいます。
研究グループは、ニホンザリガニ本来の生息状況を明らかにすべく、北海道新幹線建設予定区間で実施された調査記録から、ニホンザリガニの分布情報を抽出。2005年~2023年で調査された747地点のデータを用いて、生息の有無、個体数、河川環境との関係を解析を行っています。
また、各調査地点において、水深や落葉量など複数の環境条件を調べることで、それらが個体数に与える影響を解析。さらに、広域的な視点から土地利用データを用いて森林環境とニホンザリガニの分布との関係が評価されました。
ニホンザリガニは広く分布している?
解析の結果では、対象となった747地点のうち705地点で、ニホンザリガニの生息が確認されています。
また、環境条件を詳しく調べた結果、本種は川幅が数十センチの水深5センチ程度の小さな河川で多く確認されたほか、大きな石といった隠れ家となる環境が個体数を支える重要な要因であることが判明。広域的には、森林面積が大きな地域ほど生息率、個体数が高く、自然度の高い小河川環境が重要であることも明らかになったのです。
膨大なデータを生物多様性保全に活用
今回の研究によって、ニホンザリガニが人間活動の影響が少ない場所で、多く生息していること、ニホンザリガニの生息には自然度の高い小河川環境が重要であることが示されました。
これらの結果には、環境アセスメント調査によって得られた膨大なデータが大きく貢献しました。今後も、このようなデータを事業者、環境コンサルタント、研究機関が連携し活用することで、情報を生物多様性保全に還元できる可能性があるとしています。
この研究成果は「Journal of Crustacean Biology」に掲載されています(論文タイトル:Extensive environmental assessments for the national Shinkansen railroad project reveal high occurrence of the endangered Japanese crayfish, Cambaroides japonicus (De Haan, 1841) (Decapoda: Astacidea: Cambaroididae), in undisturbed forest streams)。
(サカナト編集部)