日本海は半閉鎖的な海域であり、外洋と異なった独自の環境を有する可能性が指摘されています。
例えば小型鯨類については、目撃情報や漂着・混獲記録がある一方、生きた個体を対象にした継続的な生態研究は限られていました。日本海沿岸で、どのような小型鯨類がいつどのように出現し、どんな音を発するのか十分に研究されてこなかったといいます。
そうした中で、京都大学の木村里子准教授らの研究グループは、若狭湾と浅茅湾で受動的音響モニタリングを目撃情報の収集を実施。日本沿岸における小型鯨類の出現、音響特性などを明らかにしました。
この研究の成果は「Marine Mammal Science」に掲載されています(論文タイトル:Occurrence and Whistle Characteristics of Small Odontocetes in Two Coastal Regions of the Sea of Japan)。
日本海沿岸における小型鯨類の出現
日本海は半閉鎖的な海であり、外洋と浅く狭い海峡でつながっています。こうした特性から日本海は独自の生態系を有する可能性が指摘されていました。
浅茅湾(提供:PhotoAC)一方、日本海沿岸における小型鯨類については、目撃情報や漂着・混獲情報があるものの、継続的な生態研究は限られていたといいます。
とくに、福井県小浜市の若狭湾と長崎県対馬市の浅茅(あそう)湾といった、日本海沿岸中央~南部では、基礎的な知見も不足していました。
小型鯨類の鳴音を長時間記録
水中での目視観察は非常に難しいとされています。しかし、小型鯨類では発するクリック音やホイッスル音が、その存在や行動を知る手がかりになるのです。
今回の研究では、日本海沿岸における小型鯨類の出現、音響特性、環境要因との関係を明らかにすべく、海中に録音機を設置。小型鯨類が発する鳴音を長時間記録する受動的音響モニタリングを実施しました。
音響記録に加え目視記録も収集
音響観測が行われたのは、若狭湾で2022年1月~2024年11月、浅茅湾では2023年3月~2024年10月の期間。クリック音の記録はパルスイベントレコーダーA-tag、ホイッスル音の記録はSoundTrapが用いられています。
加えて、観測機材の設置・回収に協力してくれた地元の漁業者からの目撃情報と写真記録の取得も行われました。
主に来遊していたのはミナミハンドウイルカ
調査の結果、若狭湾で559日のうち49日、浅茅湾で371日のうち46日といった比較的、低頻度で小型鯨類の音が検出されています。検出されたクリック音と目撃情報から、主に若狭湾と浅茅湾に来遊している小型鯨類はミナミハンドウイルカと推定されました。
また、検出された音の出現パターンには海域差があり、若狭湾では早朝に集中していた一方、浅茅湾では早朝と夕方に増加し、季節、水温、月齢が関係していることが確認されています。
ミナミハンドウイルカ(提供:PhotoAC)加えて、浅茅湾では若狭湾に比べ、一定周波数型のホイッスル音の割合が高く、全体的に低い周波数のホイッスル音が多く記録されています。若狭湾と浅茅湾を比較すると、後者では背景雑音レベルがより高い傾向にありました。
こうした結果から、日本海沿岸の小型鯨類が海域ごとに異なる出現パターンや鳴音特性を持つ可能性が示唆されたのです。
より高い精度で種や行動の把握へ
今回の研究によって、若狭湾と浅茅湾でミナミハンドウイルカと思われる鳴音を検出し、両海域でホイッスル音の鳴音特徴量が有意に異なることが明らかになりました。
また、本研究は目視だけでは情報収集が困難な海域において、受動的音響モニタリングが有効な手法であることも示しています。
この成果は、日本海沿岸における小型鯨類の基礎的な知見となるほか、長期モニタリングへの活用も期待されているようです。
一方、この研究ですべての音響記録を種同定できた訳はなく、他の小型鯨類も含まれている可能性があるとのこと。今後、研究グループは目視や写真など、様々なデータを組み合わせ来遊する種や行動をより高い精度で把握することを目指すとしています。
(サカナト編集部)