イトヨは体側に「鱗板(りんばん)」と呼ばれる骨質の構造を持つことが特徴の小型魚です。
この鱗板は、海のイトヨで発達する一方、淡水のイトヨでは各地で退化が生じています。また、温暖な海域では、鱗板の退化がよく見られることから、水温が鱗板の発達に関係している可能性が示唆されてきました。
しかし、これを実証した研究はなく、鱗板の発達と水温の関係は謎に包まれていました。
そうした中で、生態遺伝学研究室の神部飛雄研究員と北野潤教授の研究グループは、鱗板の少ない集団と鱗板の多い集団の交雑で得られた雑種を用いて、この謎に挑みました。
この研究の成果は『Canadian Journal of Zoology』に掲載されています(論文タイトル:No evidence for temperature-dependent selection on lateral plate variation in the three-spined stickleback: a single-replicate mesocosm experiment)。
イトヨの鱗板数
トゲウオ科のイトヨ Gasterosteus aculeatus は体側に鱗板と呼ばれる骨質の板状構造を持つ魚です。
この鱗板の数は生息環境によって異なることが知られており、海のイトヨでは鱗板が発達する一方、淡水では退化するといった収斂進化(しゅうれんしんか=異なる系統の生き物がよく似た姿や形質となる現象)が世界各地で生じています。

また、淡水域における鱗板の退化は温暖な地域でよく観察されるといいます。そのため、冬の環境温度が鱗板数の多様化に関係している可能性が示唆されていましたが、これを検証した研究はありませんでした。
そうした中で、生態遺伝学研究室の神部飛雄研究員と北野潤教授の研究グループは、様々な鱗板数を持つイトヨを用いて、この謎を解明すべく検証実験を行いました。
雑種を用いて実証実験
実験では、鱗板数の少ないイトヨ淡水集団(ハリヨ)と、鱗板数の多い北海道のイトヨ太平洋集団を交配して得られた、様々な鱗板数を持つ個体が用いられています。
研究グループは、得られた雑種を温暖な静岡県三島市と寒冷な北海道苫小牧市の屋外メソコスム(生態系の一部を水槽内などで再現した実験系)に放流。この手法では、自然に近い温度条件や餌環境で生物を飼育しつつ、条件をある程度管理できるとされています。
約5ヵ月間飼育が行われ、生存や成長、生殖腺の発達といった、適応度に関する指標と鱗板数の関係が調査されました。
鱗板数と成長や生殖腺の発達に関連は認められず
調査の結果、苫小牧市のメソコスムに放流された個体は、三島市のメソコスムに放流された個体と比較して生存率が低いこと、さらには成長や生殖腺の発達が遅れていたことが明らかになっています。
ハリヨ(提供:PhotoAC)一方、生き残った個体の鱗板数は、両地点で有意な差は見られなかったとのこと。また、鱗板数と成長や生殖腺の発達などの間も、今回の研究では明確な関連も認められていません。
つまり、この実験では鱗板数の違いに応じて適応度に差が生じるといった確かな証拠は得られなかったのです。これにより、鱗板数の進化は温度だけでなく、捕食や餌資源といった様々な環境要因が関係している可能性が示唆されました。
鱗板数の進化は複数の要因が関連している可能性も
今回の研究では、鱗板数の違いに応じて適応度に差が生じる明確な証拠は得られていません。
このことから、鱗板数の進化は温度だけでなく、複数の要因が相互的に作用している可能性が示唆されました。
今後、ほかにも条件を加えることで、イトヨの鱗板数の違いを生じさせる要因が明らかになるかもしれませんね。
(サカナト編集部)