魚の模様は様々ですが、ベラ科のヒノマルテンスはその中でも特にユニークな出で立ちの魚といってもよいでしょう。その模様はまさに日本の国旗である日の丸そのものです。
そんなヒノマルテンスはいったいどのような魚なのでしょうか。ご紹介します。
ヒノマルテンスってどんな魚?
ヒノマルテンス(学名Iniistius twistii)はスズキ目・ベラ亜目・ベラ科・テンス属(後述)の海水魚です。
テンスの仲間は多くの種がインド‐汎太平洋より知られていますが、本種のその最大の特徴は色彩です。体色は白っぽく、体側中央に赤色~赤褐色の大きな円形斑があり、それが日本の国旗「日の丸」を連想させることからこの標準和名がつけられました。ただしこの大きな円形斑は個体によってきれいな円形斑にならない個体もいるため注意が必要です。
このほかの特徴として、テンスは背鰭第1・第2棘が長く伸びているのに対し、ヒノマルテンスはテンスのように伸びることはありません(テンスやホシテンスといった種が長いだけともいえます)。
伊豆諸島、和歌山県、高知県、琉球列島から西太平洋の暖かい海域に生息していますが、サンゴ礁域というよりはその周辺の砂底に見られる魚で、和歌山県では釣りによって水深50mくらいの深さから漁獲されます。もちろんもっと浅い水深でも見られ、水中写真も撮影されています。
ヒノマルテンスの歴史
1972年5月1日、沖縄の本土復帰直前に発行された『原色 沖繩の魚』(具志堅宗弘著・篠原士郎監修・琉球水産協会事務局長 嘉数隆三発行、1972年)の裏表紙には奇妙な魚の写真が掲載されました。
白い体で、体の中央に赤色斑があり、日の丸を連想させるいでたちの魚です。
テンスの仲間の珍種で名前は「シラボーサー」。本土復帰の直前に漁獲されたもので、復帰の前祝いだったのかもしれません。なお、写真とわずかな解説のみで、詳細な記載は行われませんでした。
その数年後『魚類図鑑 南日本の沿岸魚』(益田一・荒賀忠一・吉野哲夫、東海大学出版会、1975年)において、和歌山県白浜で漁獲された「シラボーサー」をもとに「ヒノマルテンス」の標準和名がつけられました。ただし学名はHemipteronotus sp.つまり「ヒラベラ属の一種」、標準和名はついているものの、学名は未定という状態でした。
その後本種は1856年にオランダの軍医ピーター・ブリーカーがインドネシア モルッカ諸島のテルナテ島で採集されたものをもとに1856年に新種記載したNovacula twistiiと同定されました。属については先述の通りHemipteronotusとされたり、Xyrichtysとされたこともありましたが、Randall and Earle(2002)*以降は概ねテンス属Iniistiusに含まれています。
*Randall J.E.and J.L.Earle, 2002. Review of Hawaiian Razorfishes of the GenusIniistius
(Perciformes: Labridae). Pacific science, 56(4):389-402.
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