夏から秋に海を眺めていると、枯れ葉が浮かんでいることがあります。その枯れ葉を掬おうと網をむけると、その枯れ葉が突然泳ぎだす……なんていうことがあります。
その正体はナンヨウツバメウオをはじめとした「枯れ葉に擬態する魚たち」です。魚が枯れ葉に擬態する主な理由としては捕食者から身を守るためですが、そのほかにも理由があるようです。
今回は枯れ葉に擬態する魚をご紹介します。
魚が枯れ葉に擬態する理由とは?
魚の世界は弱肉強食です。そのため生存のための戦略を駆使しなければなりません。
ハリセンボンなどのように棘を持って身を守るもの、フグやある種のハタ科の魚のように毒を出し身を守るもの、カエルウオのように危険が迫ると小さな孔の中にかくれるもの、イワシやアジのように大きな群れをつくって何匹か捕食されても他の個体が生き延びればよいもの……。
身の守り方のひとつに、何かに化ける、いわゆる擬態があります。水中にある藻類や岩、あるいはほかの魚に擬態して身を守るというものです。
中には陸上から流れてくる「枯れ葉」に擬態して身を守る魚もいます。いずれの魚もただ枯れ葉に擬態するだけでなく、流れてきた枯れ葉に付随して泳いだり、水流に流されるような泳ぎ方をするなど、工夫を凝らして捕食者の眼をごまかすための努力をしています。
そして枯れ葉に擬態する理由としては「身を守る」ほかにもうひとつ、真逆のものとして「上手く餌を捕らえる」というのもあります。つまり、枯れ葉に化けて餌の小魚や甲殻類などを捕食するというものです。
幼魚は枯れ葉にそっくりのナンヨウツバメウオ
ナンヨウツバメウオ(学名Platax orbicularis)はスズキ目マンジュウダイ科ツバメウオ属の魚です。
幼魚は枯れ葉にそっくりで、海の水面下を漂っています。また流れ藻やロープなど、浮遊物についていることもよくあります。
枯れ葉にそっくりの幼魚は可愛いので飼育してみたくなりますが、神経質な面もあり飼育は簡単ではありません。また、成魚は全長40センチになるため、最後まで飼育するのは難しいといえます。ちなみに成魚は食用にもなります。
幼魚は東北地方以南の太平洋岸・鳥取県、福岡県津屋崎にも出現しますが、成魚が見られるのはほぼ琉球列島のみです。
なお、ナンヨウツバメウオの成魚はツバメウオによく似ていますが、吻の外縁が若干凹むこと(ツバメウオでは凹まない)や、腹鰭基部後方に黒色斑がない(ツバメウオにはある)ことで見分けられます。
背鰭の先端が旗のようなホシテンス
ホシテンス(学名Iniistius pavo)はスズキ目ベラ科テンス属の魚で、日本では静岡県以南の太平洋岸、長崎県、屋久島、琉球列島に分布しています。枯れ葉に擬態しているのは幼魚のみで、薄い体と細長い背鰭が特徴です。
ホシテンスのほかの種も同様の特徴をもつ種がいますが、ホシテンスは背鰭の先端が旗のようになっているので見分けることができます。
成魚は25センチくらいになり、体側は灰色で太い横帯があります。また全身が真っ黒のものも知られており、そのような個体は「クロテンス」と呼ばれていましたが、現在この種はホシテンスと同種とされています。
飼育については夜間砂にもぐる習性があるので、厚めに砂を敷くことと、飛び出すことがあるので蓋をしっかりすることさえ気をつければ長期飼育できるでしょう。成魚は食用になります。