日本の魚食文化の中でも、特に日常に根づいていると言える「サケ」。秋の魚といえばサケと言える程、サケは私たちの生活にありふれています。
日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人々は、秋に遡上したサケを捕獲し、貴重な資源として利用していました。今回はアイヌの伝統的なサケの利用方法をご紹介します。
アイヌ文化に欠かせないサケ
日本では古くからサケを利用した文化があり、アイヌの人々の生活にもサケは必要不可欠でした。
秋に川へ遡上してきたサケを捕獲し、それを一年分の食料としていたといいます。秋に捕れたサケを使用した燻製やルイベは、北海道の厳しい冬を乗り越えるために作られた保存食であり、たんぱく源として重宝されました。
他にもサケをアイヌ語では「カムイチェプ(神の魚)」または「シペ(本当の食べ物)」と呼ぶことからも、アイヌの人々にとってサケが特別な存在であったことがうかがえます。
内臓やヒレも食べる
現代の日本ではサケ料理というと、塩焼きや寿司など主に身肉を使った料理がメインですが、アイヌの人々は身だけではなく、内臓やヒレを利用した多種多様な料理を作っていました。
例えば、内臓を使った料理には「めふん」があります。「めふん」とはサケから少量取れる腎臓(血合い)を塩漬けすることによって発酵させた食品で、北海道の珍味の一つに数えられます。
「めふん」の名の由来は、アイヌ語で腎臓を意味する「めふる」が語源と言われています。かつて、平安時代は貴族に献上され、江戸時代には将軍に献上されました。現代では濃厚な味わいに加え、豊富に鉄分を含むことから健康食品としても知られています。
他にも内臓を使った料理に白子を使った「白子煮」、胃袋や肝臓を使った「なわた汁」、エラを使った「かげなます」などがあり、枚挙にいとまがありません。
通常は食べない魚の部位も、アイヌの人々は活用してきました。
「氷頭」と書いてなんと読むかわかりますか?
正解は「ひず」と読みます。
氷頭は鮭の鼻先の軟骨部分のことで、一尾のサケから少量しか採れない希少部位です。
切ると断面が半透明になっているのが特徴で、氷頭を酢で〆た「氷頭なます」は「めふん」と並ぶ北海道の珍味として知られています。
チタタプという面白い伝統料理もあります。チタタプはアイヌ語で「私たちが、たくさん、叩いたもの」を意味します。「めふん」や「氷頭なます」はサケの一部分のみを使用した料理ですが、チタタプではサケの頭、エラ、白子など様々な部位をネギと一緒に叩いて細かくしたものを食べます。
食材だけだはなく靴や服にも利用された
サケの皮は丈夫なため、アイヌの人々はサケを食材としてだけではなく、冬皮やヒレを靴作りにも活用しました。「ケリ(サケの靴)」は冬に備えて作られたサケ皮製の靴であり、一足作るのに4匹のサケが必要と言われています。雪の多い地域であるためか、靴底には滑り止めの役割を持ったヒレが使われるといった工夫もされています。
しかし、サケの靴は滑りやすく、火で穴が開きやすいことから冬場は鹿の皮で作られた靴が使われることが多かったそうです。他にもサケの皮を使用した衣服である魚皮衣(ぎょひい)も作られていました。服を作るのには、靴よりも多くのサケ皮を必要としたそうです。
アイヌ人の知恵はすごい
このようにアイヌの人々はサケを無駄なく活用するために、様々な工夫を凝らしてきました。食用のほか、衣服にも活用されていたのは驚きですね。
普段、廃棄している魚の部位も良い活用方法があるかもしれません。
(サカナト編集部)