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俳人・松尾芭蕉が詠んだ<ふぐ>の句の話 芭蕉生誕380年・10月12日<命日・芭蕉忌>に寄せて

明日10月12日は江戸時代の俳人、松尾芭蕉の命日「芭蕉忌」。松尾芭蕉といえば、日本各地を旅し、数多くの俳句とともに、いくつもの紀行文を残したことで知られます。

芭蕉忌に寄せて、今回は芭蕉に詠まれた魚の中から「ふぐの句」をご紹介します。

松尾芭蕉は元料理人?

芭蕉は現在の三重県伊賀市で、無足人(普段は百姓をし、有事の際には武士となる上級農民のこと)の父の子として生まれ育ちます。

若くから伊賀国上野の侍大将、藤堂新七郎良勝の三男・良忠に出仕し、台所御用人として料理に関わる仕事をしていたのではないかといわれています。ひょっとしたら、魚を料理することもあったのかもしれませんね。

松尾芭蕉像(撮影:長月あき)

2つ年上の良忠が俳諧を嗜んでいた縁で芭蕉も俳諧の道に入りましたが、主君・良忠は25歳の若さで死去。芭蕉は主君の死後に奉公を辞めて、29歳の時に俳諧師を志し江戸に出ます。

江戸で最初に暮らした地・日本橋

江戸に出てきた芭蕉は、日本橋魚市場に近い繁華街、小田原町(現在の日本橋室町1丁目)の借家で8年ほど暮らします。その頃に詠まれたふぐの句がこちら。

「あら何ともなやきのふは過(すぎ)てふくと汁」(1677年)
(昨日ふぐ汁を食べ、毒を心配していたがなんともなくほっとした)

ショウサイフグ(提供:PhotoAC)

既にこの時代には、ふぐの毒の怖さは知れ渡っていましたが、毒を取り除いて食べる調理法も知られていたそう。

伊賀で料理人をしていた芭蕉が、ふぐを料理する機会があったのかどうかはわかりませんが、毒を取り除く調理法の知識はもっていたと思われます。それでも、恐る恐る食べるほど中毒死する者が多くいたということでしょうね。

俳諧の活動拠点・深川にて

1680年、芭蕉は江戸日本橋から深川の草庵「芭蕉庵」に移り住み、50歳で生涯を終えるまで、この庵を俳諧活動の本拠地とします(庵はその後、2回住みかえているそう)。芭蕉庵に入って2年後に詠まれた句がこちら。

「雪の魨(ふぐ)左勝(ひだりかち)水無月の鯉」(1682年)
(雪の降る冬のふぐ汁と、六月の鯉の洗いを比べると、鯉のほうが勝っている)

支援者であった杉山杉風(すぎやまさんぷう)の庵を訪れた際の作といわれます。

杉風は幕府に魚類を納める魚問屋を営んでいました。芭蕉が江戸に出てきてからの門人かつ経済的な支援者でもあり、芭蕉庵を提供したのが杉風です。

鯉の洗い(提供:PhotoAC)

杉風から鯉料理(鯉の洗い)でもてなされた芭蕉が、そのおいしさを表現するために、冬のふぐ汁を引き合いに出して比較している句です。芭蕉はふぐ汁のおいしさを分かっていて、それにも勝ると鯉の洗いの素晴らしさを褒めているんですね。

野ざらし紀行に出てくるフグ

深川を拠点に俳諧師として活動した芭蕉。1684年には伊賀上野への帰郷を兼ねた旅に出立します。芭蕉第一作目の紀行作品「野ざらし紀行」の旅です。

七里の渡し(東海道の桑名宿「三重県桑名市」から宮宿「名古屋市熱田区」までの海路)を渡って、熱田に向かった際の句がこちら。

「あそび来ぬ鰒(ふぐ)釣りかねて七里迄(まで)」(1684年)
(桑名から河豚釣りをして、舟遊びをしながらやってきたが、一匹も釣れず、熱田まで七里の渡しをわたってきた)

七里の渡し(提供:PhotoAC)

この句は「鰒(ふぐ)釣らん李陵七里の浪の雪」という初案を改作したものだそう。

実際に芭蕉がふぐ釣りをしたのかどうかはわかりませんが、初案や桑名で詠まれた他の句から、当地ではこの時、雪が降っていたのではないかと考えられます。ちらつく雪を見て、芭蕉は冬の代表的な味覚のひとつであるふぐを連想し、この句を詠んだのかもしれません。

今年は芭蕉生誕380年

旅に生きた漂泊の俳人・松尾芭蕉の句には、ふぐ以外にも「鮎」「鯛」「鰹」など、様々な魚が登場しています。

今年は芭蕉生誕から380年の記念の年。時には芭蕉に思いを馳せて、身近な魚を題材に一句詠んでみるというのはいかがでしょうか。

(サカナトライター:長月あき)

参考文献

「食べる芭蕉」北嶋廣敏著(太陽企画出版・1996年)

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長月あき

東海地方在住。週末ひとり旅が大好き。旅で出会って学んだ、サカナのあれこれを発信します。

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