今回、私が取り上げる題材は何の事はない身近な淡水魚「オイカワ」についてである。
現在、ほぼ全国でみられる本種だが、実は西日本原産であり、アユの放流に伴い生息域を広げた所謂国内外来種である。
かの魚は一般にハエ・ヤマベなどと呼ばれ、ウグイやカワムツ・タカハヤ・アブラハヤといった生息圏の被る魚種といっしょくたに「雑魚」と呼ばれ、一部の愛好家を除き軽視されがちな魚でもある。
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しかも驚きなのが、オイカワに関してはほんの数年前まで学名にまで「Zacco=雑魚」が用いられるという、正に真性の雑魚なのである。
そんな少し不便な魚オイカワだが、私とオイカワとの出会いは約30年程前に遡る。
宝石のように美しいサカナがいた オイカワとの出会い
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当時、まだ幼かった私は祖父に連れられ近所の川に水遊びに来ていた。
タモ編みを片手に、まるで宝物を探すかの様な心待ちで藪を掻き分けながら小川を遡上していったのを今でも鮮明に憶えている。
目を凝らし水面を見つめ魚影を探したが、なかなか獲物は見つからず半ば諦めかけたその直後、ようやっと見つけたその魚は初めて見る、まるで宝石の様に美しい魚体をしていた。
「絶対に捕まえたい!!」
興奮で逸る気持ちを押し殺し、音をたてぬ様、慎重に歩を進める。 1歩、2歩とゆっくり忍び寄り、あと僅かでタモ網が届く距離に差し掛かった刹那、人の気配に勘づいたその魚は物凄いスピードであっという間に消え去ってしまった。
結局、その魚は捕まえられなかったが興奮は冷めやらず、一目散に祖父の下へ急ぎ先ほど出会した綺麗な魚について熱く語ったのだった。
貯水池で再会したオイカワに感動
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それから数年後。 釣りを嗜む様になった小学生の私は、近所の貯水池にて件の魚と再会を果たした。
15センチから16センチ程の、婚姻色の出た綺麗なオスだったと記憶している。
その時分にはもうある程度の魚の知識を得ていて、数年前に見かけた魚がオイカワだということはわかってはいたが、間近で手に取って見たその魚体は、図鑑で見るのとはまるで違うみずみずしい美しさを有していた。
メタリックなエメラルドブルーの魚体に赤橙色の鰭が映える魚体を私は食い入る様に見つめ、こんなにも綺麗な魚が身近にいる事に感動した。
時を戻し現在
私は少年のまま歳を重ね、中年になっても魚や昆虫への興味は薄れることなく過ごしている。
世界にはたくさんの美しい魚がいて、特に熱帯域の魚は目を見張る美しさの種も多く、そのどれもが私の好奇心を刺激して止まない。
しかし、私にとってオイカワとは原点であり、あの日あの時の興奮と感動は、今尚私の冒険心の根底に根差していて、小川に輝く雑魚という名の宝石を見るたびに、私は懐かしき夏の香りに思いを馳せるのだった。
(サカナトライター:加藤ケイタ)