国際的な未知の海洋生物探査プロジェクト「Nippon Foundation-Nekton Ocean Census」(以下Ocean Census)は、新たに866種の海洋生物を発見したと発表しました。
発見された新種は、3月10日に公開された「Ocean Census 生物多様性データプラットフォーム」で見ることができ、一般の人々も利用することが可能です。
これらの発見は海の生物多様性の理解を深める一歩と言え、今後の調査でもさらなる新種が発見されることが期待されています。
海洋生物の90%以上は未発見
地球の表面の71%を占める海洋。海洋における調査研究はこれまでに様々な国々で行われており、現在までに約24万種の海洋生物が記載され、名前が付けられています。

しかし、広大な海洋には記載されていない海洋生物も多く、その数は推定約100~200万種とされ、これまでに発見されている海洋生物は全体の10%程度だそうです。
また、科学者たちは未記載種と思われる生物に頻繁に遭遇するものの、発見から新種記載には数年かかることもあり、新種記載を待たずして絶滅してしまう可能性が危惧されています。
10年で10万種を発見する?
Ocean Censusでは、2023年に日本財団とNekton財団によって設立された「海洋生物の発見を加速することをミッションとするプロジェクト」で、世界中の生物多様性の高いポイントを表層から深海まで探査を行っています。

同プロジェクトでは、DNAシークエンシングや機械学習などの最新技術の活用、分類学者のネットワークを構築。最短1~2年かかる新種の記載までのプロセスを大幅に短縮することを目標とし、最初の10年間で少なくとも10万種の発見を目指しています。
今回発表された新種の海洋生物たち
今回、発表された新種の海洋生物たちはダイバー、潜水艇、遠隔操作船(ROV)を用いて水深1~4990メートルの海域から発見。サンプルはOcean Censusのサイエンスネットワークの科学者により分析されました。
発見された生物の一部を紹介します。
サカタザメ属の1種

サカタザメ属の1種は世界的にも有名なサメの専門家であるデイビッド・エバート氏により、モザンビーク及びタンザニア沖の水深198~200メートルから発見されました。
独特な形状から英語でギターシャークと呼ばれているサカタザメ科の魚たちは世界で40種程が知られており、全体の3分の2が絶滅の危機にあるといいます。
Turridrupa magnifica

巻貝の1種であるTurridrupa magnificaはニューカレドニア及びバヌアツ沖の水深200~500メートルから、ドイツ・ランダウ大学のピーター・シュタールシュミット博士によって発見されました。
捕食性の海生巻貝は獲物を捕獲するために毒を持ち、この毒に含まれるペプチドは鎮痛や癌治療への応用が期待されているようです。
実際に慢性疼痛の治療薬が近縁の巻貝から開発されており、海洋生物が持つバイオテクノロジーの可能性が示されています。
誰でも標本データを閲覧可能
Ocean Censusの国際的な連携プロジェクトとして、10回に及ぶ世界的な探査が実施されており、発見された魚類、コシオリエビ、ウミグモ、クモヒトデなど様々な分類群の新種をOcean Census 生物多様性データプラットフォームに登録しています。
プラットフォームは3月10日に公開されたばかりで、ベータ版のプラットフォームは研究者だけではなく、一般の人々も利用することが可能です。

実際にプラットフォームにアクセスしたところ、2025年3月現在で1684点の標本が登録されており、魚類ではゲンゲ科、ニベ科、イソギンポ科などの未記載種の画像とデータを閲覧することができたほか、他にも様々な分類群の生物が登録されていました。
新種を発見する重要性
このように地球の7割以上を覆う海洋では多くの未記載種がいることが示されているのでした。
また、新種の海洋生物の発見はロマンだけではなく、新しい医薬品や気候変動への適応策など我々の生活に必要な科学の進歩にも役立つことが期待されています。
今後の調査でも様々な新種が発見されると思われ、生き物好き・魚好きの方は「Ocean Census 生物多様性データプラットフォーム」のチェックが欠かせませんね。
(サカナト編集部)