「悪鬼貝(アッキガイ)」という怖い名前の貝を知っていますか?
名前は怖そうですが、南国ではよく見られる貝です。南国を舞台にした映画やドラマのシーンで小道具としても出てくる貝で、実は見たことがあるという人はたくさんいると思います。
今回は、このアッキガイと仲間の貝を紹介します。
アッキガイとは
アッキガイ(学名:Murex troscheli)は「アクキガイ」とも呼ばれる、アッキガイ科の巻貝です。
トゲのような刺状突起に覆われた形状をした特徴的な巻貝であり、鬼の角や鬼のこん棒に似ていることから「悪鬼貝」という名が付いたと言われています。
アッキガイ(撮影:額田善之/撮影場所:渋川マリン水族館)本種は最大20cm程度になる貝で、インド洋、太平洋、房総半島以南の沖合の水深200mまでの砂地に生息し、鹿児島では底引き網でかかることがあるようです。
アッキガイの突起
アッキガイの貝殻には120度ごとに形成される縦肋の部分に刺状突起が体層に3本、長い水管に6-8本あるのが特徴です。
体層とは巻貝の殻口から上部にひと巻きした部分で、水管とは巻貝の殻口から下方に開いて伸びている部分を指します。この突起は肉食魚から身を守るために発達したと考えられていますが、確かにトゲトゲだと食べにくいですよね。
巻貝の各部の名称(提供:PhotoAC、筆者が一部追記)なお、アッキガイは食用にされることもあり、刺身や塩ゆでなどで食べると甘くておいしいそうです。海外の暖かい海ではホネガイなどの仲間の貝も含めて、普通に食べられています。
“ビーナスのくし”こと「ホネガイ」
アッキガイの近縁種であるホネガイ(学名:Murex pecten)は、アッキガイと形状は似ていますが、アッキガイよりも棘の数が多いのが特徴です。
その美しさから海外では「ビーナスのくし」と呼ばれます。
ホネガイ(撮影:額田善之/撮影場所:渋川マリン水族館)日本では、魚の骨格のように見えることから、ホネガイと名付けられました。なんとも美的センスのないネーミングですが、見た目そのままで表現した分かりやすい和名です。
せめて「紫式部のくし」だったら素敵だったかもしれませんが、120度ごとに突起があるので、くしとしては使い勝手が悪そうです。
ホネガイは房総半島以南の水深50mまでの砂地に生息し、最大で15cmほどになります。和歌山県などでは魔除けとして利用され、民家の軒先に吊るすこともあったそう。
トゲトゲの貝殻がぶら下がる家って、オシャレというよりも面白いですね。
「閻魔」の名がついた貝も
アッキガイの仲間には、コアッキガイ(学名:Murex trapa)やクロトゲホネガイ(学名:Murex ternispina)などたくさんの種類がいます。
この中で、更に怖い名前のものがあり、その名はエンマノホネガイ(学名:Murex tenuirosrum)」です。漢字では「閻魔之骨貝」と表記します。
エンマノホネガイ(提供:PhotoAC、筆者が一部改変)アッキガイとほとんど同じように見えますが、背側に太くて長いトゲが1本あるのが特徴。他のトゲはアッキガイよりも細くなります。
エンマノホネガイはフィリピン以南の太平洋に生息するとされていましたが、2005年に奄美大島でも発見。水深50mまでの砂地に生息する貝で、全長は約10cmほどです。
アッキガイ科の巻貝は役に立つ?
アッキガイ科のその他の仲間には、人間の役に立つものが多く、古くから利用されてきました。
有名なものでは、貝紫があります。高貴な色とされる紫色に繊維を染めることができるため、ローマ帝国では皇帝や貴族が、自身の権力を象徴するために用いたそうです。
美味しくて、染料も取れて、装飾品やお土産にもなるアッキガイ科の巻貝はとても有用ですね。
アッキガイはどこで見られる?
アッキガイは漁で捕獲する貝ではないため、日本ではあまり見ることはできません。
運よく底引き網にかかった個体が、水族館などで一時的に飼育展示されるだけです。奄美大島以南の海に潜れば見つかるかもしれませんが、貝殻だけならば、水族館や博物館で常設展示されていることがあります。
ホネガイ(提供:PhotoAC)筆者は2026年4月に岡山県にある渋川マリン水族館で常設展示されているのを見て、その綺麗さに感動しました。貝の体層だけ見ると、タイのランプータンというフルーツにも見えます。
形態的にアッキガイの仲間の完全な貝殻を持つ標本は得られにくいですが、展示物を見れば雰囲気は分かるでしょう。ビーナスのくしのような貝殻を見ながら、歴史を感じたり、海外旅行気分を味わったりすることができます。
また、アッキガイなどはネット通販で貝殻を購入することも可能なので、興味がある人は探してみるのもいいでしょう。
(サカナトライター:額田善之)