株式会社シンク・ネイチャー(沖縄県浦添市)は、世界の海で得られた3500万件超の生物観測データを解析し、海洋生物多様性マップの「成熟度(どれだけ安定した知見か)」を数値化する新指標を開発しました。
ネイチャーポジティブやESG投資、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応などで自然リスクを評価する際に、生物多様性マップの信頼性を客観的に判断できる仕組みとして注目されます。
活用不可欠な“生物多様性マップ” データの偏りが課題に
現在、企業活動が自然に与える影響の評価や持続可能なブルーエコノミーの推進について、“生物多様性マップ”の活用が不可欠となっています。
一方、従来のマップでは調査不足の海域や種があるという「データの偏り」が課題となっており、「マップをどれだけ信じてよいか」を判断する基準がなかったといいます。
ビジネスにおいて、不確実なデータに基づく意思決定が環境リスクの見落としや投資判断の誤りにつながる恐れがあり、また、生物多様性保全においても、保全上重要な地域の見過ごしなどにもつながる可能性があります。
3500万件のデータで「どこまで分かっているか」を診断
そうした中、シンク・ネイチャーのサイエンスチームは、海洋生物多様性情報システム「OBIS」に登録された3500万件以上の出現記録を整備した上で、魚類やサンゴ、海藻、甲殻類、軟体動物、海洋哺乳類、爬虫類など13の主要分類群を対象にグローバルな多様性パターンを解析しました。
データを蓄積する際、生物多様性マップのパターンがどの時点で安定して変わらなくなるかを評価する「情報収束(Information Convergence)」という枠組みを導入し、「成熟度」を0〜1の指標として表現したのが特徴です。
これにより、どの知見がビジネスや政策に即座に利用できるほど成熟しているかを科学的に判別できるようになるといいます。
「どれだけ信頼できるか」を定量化(提供:株式会社シンク・ネイチャー)解析の結果、経済的・生態的関心が高い魚類や造礁サンゴ、海藻類では、種の豊富さの分布パターンが高い収束度(約0.74〜0.90)を示し、広域的な環境評価に十分活用できるレベルにあることが分かりました。
一方、保全の意思決定にも使われる「分布域の希少性を加味した種数(RWSR)」については、13の分類群すべてで極めて不安定である(収束度=0.31)ことがわかりました。
このRWSRをもとに生物多様性リスクを評価する方法は、国際的な自然関連開示で注目される「STAR指標(Species Threat Abatement and Restoration Metric)」でも広く利用されているといいます。
収束性を判定(提供:株式会社シンク・ネイチャー)今回の結果は、現在の知見では希少種のホットスポットを正確に特定することが難しく、これらの指標だけを特定の事業サイトの評価に用いることには、依然としてリスクが伴うことを示唆しています。
海洋研究とビジネスの橋渡しへ
本研究が提示したフレームワークを通して、「次にどの海域や分類群を優先して調査すべきか」という海洋生物多様性の基礎研究の優先順位づけに大きな影響を与えます。
ビジネスの文脈では、企業のリスク管理や自然資本への効率的な投資に役立つことが期待されます。
(サカナト編集部)