等脚目には身近にいるダンゴムシや深海のオオグソクムシに加え、ミズムシ亜目という分類群が含まれています。
ミズムシ類は淡水から海水まで広く生息し、特に深海での多様性が高いことで知られています。また、ミズムシは分散能力が高いグループと低いグループに分けられ、深海における分散能力と種分化の関わりを検証することができる分類群でもあるのです。
そうした中で、北海道大学大学院の太田瑞希・JSPS特別助教らの研究グループは、学術研究船舶の白鳳丸、新青丸の航海、日本近海の水深2,889~7,288メートルから得られたミズムシ属を調査。異なる深海区分から3種のミズムシ類を見出し、2種を未記載種であること、これらが近縁であることを明らかにしました。
この研究成果は『Deep-Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers』に掲載されています(論文タイトル:ThreeIlyarachna species (Isopoda: Asellota: Munnopsidae) showing differentbathymetric distributions in Japan and Kuril-Kamchatka Trenches, with descriptions oftwo new species)。
生物種が切り替わる深海区分は3つ
深海は大きく3つの水深帯に区分されており、それぞれ水深200~3,500メートルを漸深海帯、水深3,500~6,000メートルを深海帯、水深6,000メートル以深を超深海帯と呼びます。
中でも水深3,500メートル以深では、水深に沿った環境条件の変化が小さくなることが知られています。
しかし、出現する生物種が切り替わる水深があること、なぜ深海区分間で生息する種が異なっているのか、こうした生物がどのようにして種分化し多様化したのか、長年研究者を悩ませている課題です。
深海で多様化したミズムシ類
等脚目はダンゴムシやワラジムシといった身近な生物から、深海で暮らしオオグソクムシまで多様な生物が属する甲殻類の1グループです。
オオグソクムシ(提供:PhotoAC)中でもミズムシ亜目は淡水から海水まで見られる分類群で、特に深海での多様性が高く、深海で最も優占する甲殻類の1つ。この分類群は底生性動物で、さらに浮遊幼生期を欠くことが特徴です。
そのため、各個体がどの程度移動・分散するのか主に成体の特徴から説明できるとされています。
深海における分散能力と種分化の関係
ミズムシ類は歩行型と遊泳型の2つに大別することが可能です。
相対的に遊泳型は歩行型よりも分散能力が高いとされる一方、歩行型は分散能力が低いと考えられています。そのため、深海生物の種分化と分散能力の関わりを検証できる良いモデルとされているのです。
これまで、太田瑞希・JSPS特別助教は、ミズムシ類を材料に、深海生物の系統分類学、集団絵遺伝学、種分化や多様化に関する研究に取り組んできたといいます。
今回の研究では、日本海溝・千島海溝から得られたミズムシ類を対象に、系統分類学と集団遺伝学を統合した解析を実施しました。
3種を見出し2種を新種記載
研究の対象になったのは、白鳳丸と新青丸によって水深2,889~7,288メートルの30地点から底曳網によって得れたIlyarachna 属のミズムシ類です。
研究グループは、得られた標本を実体顕微鏡下で解剖し、各部位を詳細に形態観察を実施。その結果、水深2,886~3,519メートル、水深4,026~6,131メートル、水深5,976~7,285メートルから1種ずつ、計3種のミズムシ類が見出されています。
このうち、漸深海帯から得られた標本は既知種の可能性が判明。一方、深海帯と超深海帯の2種が未記載種であることを明らかになり、深海帯の標本はIlyarachna abyssalis 、超深海帯の標本はIlyarachna hadalis として新種記載されました。
また、分子系統解析の結果では、3種が単系統群を形成し、遺伝的に非常に近縁であることがわかり、特に深海生種と超深海生種では特に近縁ということも明らかになっています。
生物種の切り替わりを解明する良い材料に
今回の研究によって、日本近海の水深2,889~7,288メートルから得られたミズムシ類が3種見出され、このうち2種が新種記載されました。また、いずれの種も近縁であることがわかっています。
このように、近縁な3種が異なる深海区分ごとに棲み分けしている例は、これまで知られていなかったとのこと。また、深海生種と超深海生種は非常に近縁で、この2種が水深に沿った環境条件の変化が小さい深海帯と超深海帯で生物種の切り替わりが起こったのか、解明する良い材料になるとされています。
今後、見出された3種をゲノム比較などを用いることで、水深帯に分布する要因、水深帯ごとの環境への適応機構について、理解が深まることが期待されています。
(サカナト編集部)