環境DNA分析とは、採水するだけでその水域の魚類相を簡易的に把握できる画期的な手法です。
しかし、従来の手法では魚類の多様性を過小評価している可能性がありました。
そうした中で、山口大学大学院の中尾遼平准教授らの研究グループは、水中の環境DNAを捕集・蓄積する手法を開発しました。
この研究成果は『Landscape and Ecological Engineering』に掲載されています(論文タイトル:Efficacy of natural marine sponges as a passive environmental DNA sampler for freshwater fish diversity monitoring)。
環境DNA分析で魚類相を把握
環境DNA分析は、採集を伴わずに採水するだけで、その水域の魚類相を簡易的に把握できる画期的な手法です。
しかし、環境DNAも万能ではなく従来の採水法では、スパップショット的な情報しか得られず、魚類の多様性を過小評価してしまう可能性がありました。また、過小評価を防ぐためには同じ水域で複数回の採水を行う必要があり、多大な時間とコストがかかってしまいます。
パッシブサンプリング法に着目
今回の研究では、より簡易的かつ効率的な観察DNA調査手法としてパッシブサンプリング法(以下:PS法)に着目。
このパッシブサンプリングは、捕集材を長時間浸漬することで、環境DNAを吸着・蓄積し浸漬した時間に応じた、魚類多様性の情報を得られる手法です。
海綿スポンジのイメージ(提供:PhotoAC)この手法の捕集材は活性炭など様々なものが利用されますが、この研究では天然素材かつ扱いが簡単な海綿スポンジを採用。河川環境と魚類を対象に従来の採水法との比較を行い、海綿スポンジを採用したPS法の有効性を検証しました。
採水法とPS法を比較
調査地となったのは山口県を流れる佐波川中流域です。2021年、2022年にこの水域で採水法とPS法による魚類環境DNA調査が計3回実施されました。
佐波川(提供:PhotoAC)本調査における採水法では、調査定点で2時間または3時間おきに河川水を1リットル採水し、フィルターを用いたろ過を24時間分。一方、PS法では海綿スポンジを河川に浸漬し24時間後に回収されています。
研究グループは、実験室内でフィルターや海綿スポンジから環境DNAを抽出し、魚類のDNAを網羅的に増幅するMiFish プライマーを用いたPCRを実施。その後、増幅したDNA配列を決定し、試料ごとに検出された魚種の数を採水法とPS法で比較が行われました。
PS法の有効性が示される
比較の結果、今回、PS法で検出された魚種数は採水法と同等またはそれ以上を示したといいます。
また、採水法では昼と夜で検出される魚種数にばらつきがあったのに対し、PS法ではばらつきの少ないデータが得られようです。さらに、PS法のみで検出された魚種も確認されています。
この結果から、海綿スポンジを用いたPS法により、従来よりも効率的な環境DNA調査が可能であることが示唆されたのです。
環境DNA調査の新たな手法に
今回の研究によって、PS法を用いた環境DNA調査の有効性が示されました。この手法では捕集材を環境中に設置するだけでよいことから、深海など採水法では対応が難しい海域でも適応できると考えられています。
簡易的で効率的なPS法は、今後、環境DNA調査の新たな手法としての活用が期待されています。
(サカナト編集部)