海水魚と淡水魚は一部を除き、それぞれが異なる環境に生息し、日本ではそれぞれで異なるグループの魚たちが繁栄しています。
しかし、偶然なのか、異なるグループ同士で姿が似てしまった魚も少なくありません。中には、海水魚にもかかわらず、和名に淡水魚の名前が使われている魚がいるのです。
タナゴによく似た<ウミタナゴ>
ウミタナゴは、ウミタナゴ科に属する魚の総称またはウミタナゴ(Ditrema temmincki temmincki)を指します。
日本のウミタナゴ科は4種2亜種が知られており、いずれも浅海に生息する海水魚です。和名の由来は、姿が淡水魚のタナゴ類(コイ目コイ科)に似ることから名付けられたと考えられています。

マタナゴ(提供:PhotoAC)
日本で比較的よく見るウミタナゴとマタナゴ(Ditrema temminckii pacificum)は亜種関係で、この2種は形態的によく似るものの、ウミタナゴの前鰓蓋縁の下方に明瞭な暗色班が2つあるのに対し、マタナゴでは前鰓蓋縁の隅角部に三日月状班があることで区別することが可能です。
また、この2種は分布域も異なり、ウミタナゴは津軽海峡~福島県の太平洋、日本海、愛媛県などに生息するのに対して、マタナゴは千葉県~和歌山県の太平洋、瀬戸内海、紀伊水道、豊後水道に生息。形態での区別が難しい場合は、採集地も同定する上で重要な情報となる魚たちです。
ヒゲが特徴的な<ウミヒゴイ>
スズキ目にはウミタナゴ同様にコイ科の名前が付く魚がいます。
ウミヒゴイはヒメジ科ウミヒゴイ属に分類される魚で、大きさは20センチほど。下顎の先端にある1対のひげには味蕾があり、これを使い海底を索餌します。

おそらくウミヒゴイという名前は、本種の色鮮やか体色に加え、コイのようにヒゲを持つことが和名の由来でしょう。
なお、本種に限らずヒメジ科の魚たちは下顎にヒゲを持ち、本科の中にはこの髭に由来してオジサンと命名された魚もいます。また、英語ではこのヒゲをヤギのヒゲに見立てのか、「ゴートフィッシュ」と呼ばれているようです。
そんなに似てないけど<ウミドジョウ>
標準和名に淡水魚の名前が付く魚は深海にもいます。
ウミドジョウはアシロ目アシロ科に分類される魚で、30~200メートルの砂泥底に生息。なぜ本種にこのような名前が付けられたのか不明ですが、眼の直下付近にある糸状の腹びれが淡水魚のドジョウを彷彿とさせるからと推測しています。
あるいは、ウミドジョウの体形が淡水魚のドジョウに似ることに起因しているかもしれません。
正直、本種のほかにもドジョウに似た海水魚は幾らでもいるに、なぜよりにもよってこの魚にウミドジョウという名前が付けられたのか不思議ですね。

ちなみに別名が「ウミドジョウ」の魚も存在します。日本各地に生息するニシキギンポ科のギンポのほか、アユモドキは滋賀県の方言でウミドジョウも呼ぶそうです。
なぜ、淡水魚であるアユモドキがウミドジョウと呼ばれているのか不明ですが、琵琶湖が別名で「淡海」と呼ばれることに起因しているのかもしれませんね。
海と淡水で似た姿の魚がいる
このように海水魚でありながら淡水魚の名前が付く魚たちは、形態的な共通点が由来となっていると考えられます。
反対に海水魚が名前に入る淡水魚もいるので、興味がある方はぜひ調べてみてください。
(サカナト編集部)