倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科の渡辺黎也助教、長崎大学の大庭伸也准教授、兵庫県立大学大学院の佐川志朗教授の研究グループは、休耕田ビオトープにおける水生昆虫の多様性が、周囲1000メートルの景観構造に大きく影響されることを明らかにしました。
この研究成果は「Biodiversity and Conservation」に掲載されています(論文タイトル:Seasonal and scale-dependent effects of paddy-type diversity and forest cover on aquatic insect diversity in fallow field biotopes)。
問題となる「耕作放棄田」
近年、日本では高齢化などにより「耕作放棄田」が増えています。
耕作放棄地(提供:PhotoAC)耕作放棄田では、陸地化が進み水生昆虫類が生息しにくくなるほか、害獣の増加などのリスクも指摘されてきました。これらの対策として、耕作放棄田を湿地として再生させる「耕作放棄田ビオトープ」が注目されています。
しかし、どの場所を耕作放棄田ビオトープとすれば、生物多様性の保全に最も効果があるのか、十分にわかっていませんでした。
水田の水生昆虫類は水域を行き来する
水田の水生昆虫類は、季節によって多様な水域を行き来して生活していることが知られています。
特に水田は、作物によって水を張る時期や時間が異なることから、様々なタイプの水田が混在することにより、水生昆虫類が利用できる環境が増える可能性があるとされているようです。
ミズスマシ(提供:PhotoAC)また、一部の水生昆虫類では、森林で越冬・採餌し、繁殖期に水域へ移動する生態を持ちます。そのため、水田だけでなく森林を含む景観構造が、生物多様性に影響を及ぼす可能性があると考えられています。
しかし、これまでの研究では、周囲の森林・水域が水生昆虫類に影響を与えることは知られていたものの、どの範囲の景観が影響するのか、影響が季節ごとにどう変化するのかは明らかになっていませんでした。
各季節ごとに調査・記録
そこで研究チームは、水田の多様さ、森林の割合、それらが影響する範囲が水生昆虫類の多様性にどう影響するのかを季節ごとに検証を行いました。
調査は2023年4月~2024年2月、兵庫県豊岡市の通年湛水ビオトープ42地点を対象に、各季節1回ずつ実施。各地点では水生昆虫の種ごとの個体数のほか、水質や水深、外来種の有無なども記録されています。
また、ビオトープ周囲の景観を評価するために、半径250~5000メートルの範囲でバッファーを設定し、水田のタイプと森林の割合を解析したほか、水田の多様さを示す多様度指数を算出。これらのデータをもとに、空間スケールごとの景観要因と環境要因が水生昆虫の多様性、ゲンゴロウ類の個体数に与える影響が解析されました。
“農法の多様さ”と“中程度の森林”が重要
解析の結果、水生昆虫の多様性はビオトープ周囲における水田の多様度と森林面積率に大きく影響されることが判明。特に春はビオトープの周囲1000メートルで水田でおこなわれる農法が多様であると、水生昆虫の多様性も高いことが明らかになりました。
また、夏に周囲5000メートル以内、秋に周囲1000メートル以内の森林が中程度に存在する場所で、多様性が高くなる傾向も確認されています。これは森林で採餌・越冬する種が集まりやすいこと、餌となるユスリカ類が豊富になることが理由のようです。
しかし、森林が多いと飛翔中の水生昆虫が水域を見つけにくくなるため、あくまでも森林は中程度が望ましいようです。
優占的に整備する水域の条件
水生昆虫類に影響を及ぼす空間スケールも季節によって異なり、春・秋では1000メートル、夏では5000メートル、冬では250メートルが重要であり、ゲンゴロウ類においても周囲1000メートルの景観が重要であると示されました。
このとことから研究チームは、周囲1000メートルに多様な水田があり、中程度の森林が存在する場所を優先的に整備することが、水生昆虫類の多様性保全に有効であるとしています。
ビオトープの管理に貢献
今回の研究によって、休耕田ビオトープに生息する水生昆虫類にとって、周囲1000メートルの景観構造が多様性に大きく影響を与えることが明らかになりました。
この成果は、休耕田ビオトープを整備・管理するうえで重要な知見になることが期待されています。
(サカナト編集部)