植物は自ら移動することが不可能です。
そのため、植物が分布域を広げるためには鳥類や哺乳類、風による分散が有効とされています。しかし、植物の中には林床のように、風通しの悪い環境で暮らす種も少なくありません。
こうした環境では、地表を移動する小さな動物が種子分散の役割を担っている可能性があるとされています。
そうした中で、神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授は、光合成をやめた植物「リュウキュウツチトリモチ」を対象に、本種を食べる動物の有無と、その動物が種子分散者になり得るのか調査を行いました。
この研究成果は「Ecology」に掲載されています(論文タイトル:Unexpected allies: Land hermit crabs and cockroaches contribute to seed dispersal in a non-photosynthetic plant)。
種子の分散は必要不可欠
植物は自らの力で移動することができず、分布域を広げることができません。種子を離れた場所へ運ぶことは分布域を広げることだけでなく、次世代を残すうえでも必要不可欠です。
植物は自力で動くことができないものの、種子は風や動物によって運搬されます。
とくに動物では、鳥類や哺乳類が果実を食べることで、消化されずに糞と共に排出することで種子を分散。彼らは種子分散者と呼ばれています。
近年の研究では、カマドウマやゴキブリといった小さな無脊椎動物も種子を運ぶ事例が報告されているようです。
光合成をやめた植物
植物は光合成をするものだと思いがちですが、暗く風通しの悪い林床には光合成をやめた植物が生息しています。
琉球列島などに生息する寄生植物「リュウキュウツチトリモチ」もその1つ。本種は他の植物に寄生し栄養を得ています。見た目はキノコのようですが、立派な被子植物に分類される植物です。
リュウキュウツチトリモチ(提供:PhotoAC)成熟後は、長さ0.3ミリ程の果実を大量につけるといい、この小さな果実は風で重力で簡単に運ばれると思いきや、風通しの悪い林床ではそうも行かないようです。
この植物はどのようにして種子が運ばれるのか──末次健司教授は、リュウキュウツチトリモチを食べる動物がいるのか、その動物が種子分散者として機能しているのか確かめるべく調査を行いました。
リュウキュウツチトリモチを食べる動物
末次健司教授はリュウキュウツチトリモチを対象に、果実を付けた株へ訪れる動物の調査を実施。
昼夜を通じた直接観察とインターバルカメラを用いた約90時間におよぶ観察の結果、主にリュウキュウツチトリモチの果実を食べていたのは、オカヤドカリであることが判明しています。
オカヤドカリ(提供:PhotoAC)オカヤドカリはハサミを巧みに使い、果実や肉質組織を削ぎ取るように食べていたとのこと。
中には、1つの株に複数個体が集まっている例や、一晩で地表に出ている株の大部分が食べられた例もあったといいます。
体表や貝殻に果実を付着させて移動
次に、オカヤドカリが種子分散者の役割を担っているのかを調査。果実を食べていたオカヤドカリを洗浄し、多数の果実を回収しました。
すると、なんと平均で十数個、多い個体では100個以上の果実が付着していたといいます。また、リュウキュウツチトリモチの株から5メートル以上離れた場所で発見されたオカヤドカリにも果実が付着していたようです。
これらの結果は、オカヤドカリが貝殻や体表にリュウキュウツチトリモチの果実を付着させながら移動し、親植物から離れた場所まで運んでいる可能性を示しています。
糞の中から無傷を種子も発見
さらに、オカヤドカリの糞からは無傷の種子が多数発見されています。
野外で果実を食べていた個体と、実験的に果実を与えた個体どちらからも無傷の種子が見つかったほか、消化管を通過した種子の一部は生存能力を保っていたようです。
こうしたことから、オカヤドカリはリュウキュウツチトリモチにとって種子の運び屋になっていると考えられています。
オカヤドカリの保全は生態系の保全にも
今回の研究によって、リュウキュウツチトリモチの果実をオカヤドカリが食べることが明らかになったほか、オカヤドカリが果実を遠くまで運んでいる可能性が示されました。
これまで、オカヤドカリが果実を食べることはわかっていたものの、それが食害なのか種子分散なのか、十分に検証されてこなかったといいます。そのため、これらの成果は本種が「果実の付着」と「糞の排出」といった2つの経路で、種子分散に関わっていることを初めて実証したものとなりました。
また、オカヤドカリは稀少な動物としてだけでなく、植物の生殖も支えている可能性があり、本種の保全は生態系を守ることに繋がると期待されています。
(サカナト編集部)