大東諸島は周囲が深海に囲まれている海洋島です。
この島では近年、ハワイをはじめとした海洋島のみに生息する日本記録種が相次いで報告されています。
こうした中で、琉球大学大学院の研究グループは、北大東島沖で漁獲されたヒメジ科の稀種を日本初記録種として報告。新たに標準和名を提唱しました。
この研究成果は『Species Diversity』に掲載されています(論文タイトル:First Japanese record of Parupeneus moffitti (Teleostei: Mullidae) from Kitadaito Island)
新たな発見が相次ぐ大東諸島
沖縄本島から約360キロ東に位置する大東諸島。周囲が深海で囲まれている海洋島です。
近年は、ホラアナヒスイヤセムツ、サイハテユゴイ、ツマグツといった、ハワイをはじめとした海洋島のみに生息する日本初記録種の報告が相次いでいます。
こうした中で、また新たに大東島から得られた魚(ヒメジ科)が日本初記録種として報告されました。
標本が得られたのは魚市場
ヒメジ科魚類を報告したのは琉球大学院の研究グループで、著者の一人である金子哲平大学院生が、沖縄県那覇市の鮮魚流通販売施設(泊ゆいまち)で、珍しい魚が販売されていることに気づき、研究標本用として購入したことがきっかけだといいます。
泊漁港(提供:PhotoAC)このヒメジ科魚類は大学に持ち帰られ標本となり、同じ大学院生でヒメジ科ウミヒゴイ属の研究に取り組んでいた篠田将太郎氏によって詳しい調査が行われました。
わずか3標本しか知られていない稀種
篠田氏が標本をみたところ、ひれやヒゲの長さ、鰓耙数、色彩が日本のウミヒゴイ属のいずれとも一致しないことがわかっています。
さらに、これまで世界で知られているウミヒゴイ属35種と比較した結果、本標本がグアムおよび北マリアナ諸島からわずか3標本のみが知られている稀種 Parupeneus moffitti であることが判明。
研究グループは、泊いゆまちや沖縄県漁連、北大東村水産組合の協力のもと、魚が北大東島北東沖の水深180メートルで漁獲されたものであることも明らかになっています。
遺伝子の解析も実施
本種については、これまで一度も遺伝子解析が行われていないことから、研究グループは、遺伝子解析も実施しました。
その結果、ハワイに生息する形態が酷似した Parupeneus chrysonemus に近縁であるものの、遺伝的にも種レベルの差異があることが明らかになっています。
Parupeneus moffitti はひげが長いこと、黒色帯や黒色班がないこと、背中に桃色の縦帯を持つことが特徴のようです。
海洋島に生息することに因み命名
Parupeneus moffitti が含まれるposteli種群は、ほとんどが海洋島から記録されていることから、本種も海洋島に適応していると考えられています。
また、本種の北大東島からの発見は、大東諸島がマリアナ諸島をはじめとした海洋島と、生物地理学的なつながりがあるとされる仮説を支持するものとなりました。
北大東島(提供:PhotoAC)なお、Parupeneus moffitti はこれまで和名が一度も付けられたことがなかったため、研究グループによって標準和名「コトウヒメジ」が提唱されました。
名前にある“コトウ”は、本種が海洋島のみに分布することに因んでいます。
他の海洋島との生物学地理的なつながり
今回の研究によって、沖縄県那覇市で購入された北大東島沖のヒメジ科魚類が日本初記録種として報告され、コトウヒメジと命名されました。魚市場という身近な場所で、こうした稀種が売られていたことは、驚くべきことです。
この成果は、大東諸島の多様性を明らかにしただけでなく、大東諸島がマリアナ諸島をはじめとした海洋島と、生物地理学的なつながりがあるという仮説を支持するものとなりました。
(サカナト編集部)