哺乳類は手足を失うと「線維化」が起こり、硬い組織で傷口を塞ぐことしかできません。
一方、イモリは驚異的な再生能力を持つことで知られています。しかし、イモリがどのようにして再生プログラムを始動させるのか、ヒトがなぜなそれができないのかは、再生医学における長年の謎とされてきました。
その中で、注目されてきたのがCCN ファミリーの1種「nsCCN」です。nsCCはイモリ特有の再生因子として考えられてきたものの、進化の過程でどこから出現したのか、再生でどんな役割を持っているのかは、詳しくわかっていませんでした。
こうした中で、筑波大学の千葉親文教授らの研究グループは、遺伝子解析技術と分子生物学の手法を用いてこの謎を解き明かしました。
この研究成果は『Scientific Reports』に掲載されています(論文タイトル:Implications for the involvement of a CCN-like gene in the initial process of adult newt limb regeneration.)。
イモリの肢再生
我々ヒトを含む哺乳類は、大きな傷を負ったり手足を失ったりすると、線維化が起こり、硬い組織で傷口を塞ぐことしかできません。
一方、哺乳類と同じ四肢動物であるイモリは驚異的な再生能力を持つことで知られています。彼らの場合、切断された肢の傷口は線維化が起こりません。切断面に再生芽と呼ばれる未分化の細胞の塊が作られるのです。
アカハライモリ(提供:PhotoAC)この再生芽が徐々に大きくなり新しい肢へと成長します。
しかし、イモリたちがどのようにしてこの再生プログラムを始動させるのか、なぜヒトにはこの機能が備わっていないのか、これらは再生医学で長年の謎とされてきました。
細胞同士のコミュニケーションを仲介する「nsCCN」
こうした中で、注目されてきたのがCCN ファミリー(細胞外に分泌される、細胞同士のコミュニケーションを仲介するタンパク質グループ)の1種「nsCCN」です。
このnsCCNはイモリ特有の再生因子と考えられてきました。しかし、進化の過程でどこから現れたのか、再生における役割は謎に包まれていました。
そこで、今回の研究ではこの謎を解き明かすべく、遺伝子解析技術と分子生物学の手法を用いて、nsCCNを詳しく調べました。
哺乳類では進化の過程で失われていた
研究グループが遺伝子の系統を調べたところ、nsCCNが標準的なCCNファミリーではなく、CCN-likeファミリーに属することが明らかに。このCCN-likeファミリーは、かつて魚類から四肢動物へ進化する過程で、肉鰭類の共通祖先で誕生したといいます。
これらは、現存するカエルやイモリに受け継がれている一方、哺乳類や爬虫類、鳥類などでは進化の過程で完全に失われてしまったようです。
また、研究グループは最新技術を用いて、イモリの再生でnsCCNがどのような働きをしているか追跡。その結果、nsCCNを作っているのは、血液中にある栓球と、再生芽に集まってくる免疫細胞の1種であることが判明しています。
nsCCNの働きも明らかに
さらに、研究ではnsCCNの働きを阻害する抗体をイモリに注射したところ、再生芽の成長が遅れることが確認されています。
また、血液の動態を詳しく調べた結果では、肢の切断面が新しい皮膚で覆われた後に、nsCCNが重要な役割を果たしていることも判明。具体的には、nsCCNが傷口の血管に詰まった血液を溶かす働きを助け、切断面と傷表皮の隙間への血液流入と循環を促していたのです。
こうして再生を伴う細胞が集積する適切な環境が整備され、再生芽の成長が促進されていると考えられています。
再生医療への貢献が期待される
今回の研究によって、CCNファミリー遺伝子と考えられてきたイモリに特有のnsCCNが、未知の姉妹グループであるCCN-likeグループに属すること、この遺伝子が肢再生の初期過程で働いていることが明らかになりました。
今後、nsCCNの働きをより詳しく調べることで、再生医療の手がかりが得られることが期待されています。
(サカナト編集部)