ヒトの会話では、相手の発話が終わる頃を見測り応答します。これは声の重なりや長い沈黙を避けるためです。
一方、イルカの音声交換では、お互いの鳴き声が重なることがしばしば観察されてきました。しかし、この音声の重なりが偶然なのか、鳴き声に対する応答なのか詳しいことはわかっていなかったといいます。
そうした中で、東京大学の寺田知功助教らの研究グループは、この謎を解き明かすべく、ハンドウイルカが持つ個体特有の鳴き声「シグネイチャーホイッスル」を交換する際、お互いの声が重なる仕組みを調査しました。
この研究は『Animal Behaviour』に掲載されています(論文タイトル:Testing mechanisms underlying vocal overlap during vocal exchange of signature whistles in common bottlenose dolphins)。
動物の音声コミュニケーション
我々ヒト同士の会話では、長い沈黙が続いたり互いの声が重なったりしないように調整を行っています。
こうした現象はヒトだけだなく、霊長類や鳥類など多くの動物の親和的な音声交換でも、声の重なりや長い沈黙を避けるような調整が報告されてきました。
イルカの声の重なり
鯨類のハンドウイルカでは、個体ごとに固有な「シグネチャーホイッスル」を発することが知られています。また、ハンドウイルカの音声交換では、声が重なることがしばしば観察されてきました。
ハンドウイルカ(提供:PhotoAC)しかし、この音声の重なりが偶然生じるのか、あるいは相手の声を予測して発音しているのかは謎に包まれていました。
そこで、研究グループは声の重なりの謎を明らかにすべく、アドベンチャーワールドで飼育されているメスのハンドウイルカ5頭を対象に研究を行いました。
声の重なりは偶然ではない?
まず、研究グループは音声の重なりが偶然かどうか確かめるために、「声の重なりの調節せずにイルカが鳴き返していた場合」のシミュレーションを実施。すると、声の重なりはシミュレーションよりも有意に多く、偶然だけでは説明できないことが明らかになりました。
次に、イルカが相手の声を予測して発声しているのか調べるために、自然に生じたシグネチャーホイッスルの連続発声の分析が行われた結果、イルカは鳴き声のほぼ一定の間隔で繰り返していることがわかっています。
相手の発声に素早く応答
これらの結果を受け研究グループは、一定間隔で鳴き声を再生する条件と、感覚を不規則にした条件を設けました。
相手の発声を予測して鳴き声を重ねているのあれば、鳴き声が一定間隔の条件の方が、重なりが多くなるという考えです。
しかし、実際には一定間隔の鳴き声と不規則な間隔の鳴き声で、重なりの回数などに有意な差はありませんでした。
このことから、イルカはリズムを手掛かりに相手の発声を予測するのではなく、相手の鳴き声を聞いた後、その鳴き声が終わる前にすばやく応答していると考えられています。
ヒトの会話の進化を理解する重要な手がかりに
今回の研究によって、イルカの声の重なりは偶然ではなく、相手の鳴き声が終わる前に素早く応答している可能性が高いことが明らかになりました。これはイルカが声の重なりを避けないという特徴的な音声交換を行っていることを示すものです。
この成果は将来、動物の音声コミュニケーションやヒトの会話の進化を理解するうえで重要な知見になることが期待されています。
(サカナト編集部)