山口県からのアズキハタの記録は間違い?

石垣島で水揚げされたアズキハタ(南方性種)(撮影:椎名まさと)
魚の俗称や地方名で混乱を招いた例として「山口県日本海沿岸のアズキハタ」というケースがあります。
このアズキハタはスズキ目・ハタ科の魚で熱帯性とされていますが、山口県の日本海沿岸でも「アズキハタ」の記録があるといいます(中坊徹次 編「日本産魚類検索第三版」東海大学出版会、2013年)。
しかし、このアズキハタは熱帯性が強く、国内の分布域は沖縄諸島以南の琉球列島で、九州沿岸でも見ることができず、そんな魚が九州を飛び越えて山口県に分布するとは考えにくいところがあります。
山口県日本海沿岸の「アズキハタ」の正体はあずき色の斑点をもち、「あずきます」とか「あずきはた」とも呼ばれるキジハタか、ノミノクチ、あるいはオオモンハタなどのことかと思われます。
案の定、というべきか、標本や水中写真などの画像に基いて同海域の魚を網羅した文献(園山貴之・荻本啓介・堀 成夫・内田喜隆・河野光久 著「証拠標本及び画像に基づく山口県日本海産魚類目録」鹿児島大学総合研究博物館、2020年)にもアズキハタは掲載されていません。
このように標準和名と混同しやすい地方名や俗称については注意しなければなりません。
オジサンの利用
オジサンはウミヒゴイ属の魚の中では小型種ですが、それでも20cm近くになるものは食用として利用されています。
沖縄ではヒメジ科の魚は「じんばー」もしくは「かたかし」などという名前でよばれ、オジサンは「いしかたかし」(具志堅宗弘 著「原色 沖縄の魚」篠原士郎監修・琉球水産協会事務局長 嘉数隆三発行、1972年)、「へえるかたかし」(日本魚類学会編「日本産魚名大辞典」三省堂、1981年)などと呼ばれています。

水槽で飼育されているオジサン(撮影:椎名まさと)
観賞魚としても知られ、小型個体が観賞魚店で販売されていることもあります。ほかにオジサン同様小型種であるインドヒメジや、オジサンに特に近縁とされるマルクチヒメジなども販売されることがあるものの、オジサンとインドヒメジ以外のウミヒゴイ属の魚は大きくなるため観賞魚としては飼育しにくいところがあります。
また、琉球列島では釣りの際、餌にオジサンなど小型のヒメジを泳がせて大物を狙うことがあります。針をかけてもアジなどよりも元気に泳ぐからなのか、重宝されています。以前筆者が訪れた奄美諸島喜界島ではオジサンやホウライヒメジの幼魚を餌にして、大型のハタやタキベラなどを釣っていました。
ヒメジの仲間では小型種でありながらも、食用になったり、観賞魚になったり、釣り餌になったりと、知名度の高さを武器にどこでも引っ張りだこのオジサン。ですが、その標準和名で呼称されるものには別の魚を含むことがあるなど、注意が必要です。みなさんもヒメジ科魚類を釣ったら「おじさん」とひとくくりにせず、しっかり調べてみてほしいと思います。
(サカナトライター:椎名まさと)
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