魚が好きな方は地方に旅行した際、こんな体験をしたことはないだろうか。
スーパーや鮮魚店で全く聞いたことがない名前の魚が売られている……。あるいは料理屋のメニューで、もしかすれば港で釣りをする釣り人から、どんな姿なのか想像もつかない魚の名前を見聞きする……。
今回は、魚の地方名、中でも各地でいろいろな呼び名がある「カサゴ」の地方名について、筆者の体験談も交えて解説していこう。
岡山県のスーパーで不思議な体験
筆者は現在、岡山県に住んでいる。引っ越してまだ3か月ほどなので、日々知らない岡山の文化に出くわしては驚く毎日である。
先日、こんなことがあった。ある日、近所のスーパーの鮮魚売り場をみていた時のことである。売り場には切り身の鮭などに混じって、まだ捌かれていない地魚が数点パックに入れられて売られていた。
その中に、茶色い魚と赤い魚が2匹セットになって売られているものがあった。ラベルには「めばる 岡山県産」とあるが、パックに入っている「メバル」と思われる魚は茶色い方の魚のみであり、赤い方はどう見てもカサゴなのである。
岡山における「メバル」とは
不思議に思い調べてみると、岡山ではカサゴを「めばる」と呼称するらしい、ということが分かった。また、いわゆる標準和名で「メバル」と呼ぶ魚のことも、岡山では「めばる」と呼ぶため、両者は明確に判別されていないようである。
もちろん生物学的には「カサゴ」と「メバル」は全く違う魚であるが、食文化という側面からは混同されている場合もある、という面白い例である。
カサゴの地方名いろいろ
カサゴは釣りでも簡単に狙うことができるため、海辺の人にとっては身近な魚のひとつである。そのため、各地で様々な呼び名がある。
九州ではカサゴを「アラカブ」と呼ぶ。熊本や鹿児島では「ガラカブ」と先頭の発音が濁ることもあるようだが、九州はおおむね「アラカブ語圏」と呼んで差し支えないだろう。
一方、関西では「ガシラ」と呼ぶ。この呼び方は和歌山を中心に、南は徳島まで分布しているようだ。おそらくカサゴは頭が大きいので、「頭(かしら)」が訛って「ガシラ」となったのだろう。筆者は関西出身なので、「ガシラ」という呼び方には大変耳なじみがある。
カサゴの面白い地方名として、神奈川・三崎に「ツラアラワズ」というのがある。なんでも、カサゴは顔つきがよくないので(筆者はかわいいと思うが)、「顔を洗っていないようだ」ということで「ツラアラワズ」というようである。カサゴには気の毒だが、面白い地方名として紹介しておく。
魚の地方名との向き合い方
魚の研究者や、魚を分類学的観点からみている方にとっては「めばる」が混同されているような状況はあまり好ましいとは思われないかもしれない。しかし、地方名は各地の地元の人々が長い歴史の中で作り上げてきた貴重な文化遺産である。
魚を生物的な面、文化的な面の両方から楽しむことができれば、より海や魚を愛し、大切にする心が育まれるのではないかと筆者は思う。
(サカナトライター:宇佐見ふみしげ)
参考文献:WEBサイト・市場魚介類図鑑