ミナミハタタテダイ Heniochus chrysostomus Cuvier, 1831
ミナミハタタテダイは体長15センチ程の種です。国内では相模湾以南の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島に分布しています。関東の磯では幼魚のみ見られるものの、ほぼ越冬できないものと思われます。
海外では東インド洋のココスキーリングから西太平洋、中央太平洋のソシエテ諸島(タヒチ島が基産地)、ツアモツ諸島に広く見られますが、ハワイ諸島には見られません。
一見ハタタテダイによく似ていますが、眼を通る斜めの太い帯があり、背鰭は黄色くなく茶色い帯が入っているので識別は難しくはありません。
観賞魚として飼育されることもありますが、ハタタテダイなどとは異なりサンゴのポリプを捕食する種ともされます。そのため飼育は難しいとされ、逆にサンゴ水槽ではサンゴを捕食するおそれがあります。
ツノハタタテダイ Heniochus varius (Cuvier, 1829)
ツノハタタテダイは日本においては琉球列島に多い種で、九州以北でも本種の幼魚を見ることがあります。ただし数は少ないようで、越冬しているかも不明です。
タイプ産地は東インド(East Indies)であり、東インド洋からソシエテ諸島にまで分布域が及びます。檜山・安田(1972)はこのツノハタタテダイの分布域についてアフリカ東岸にまで達する、としていますが、近縁種との誤同定である可能性があります。
全身チョコレート色で、体側前半と、背鰭の基部に白い線があるという色彩で、ハタタテダイ属としては地味な魚です。特徴は頭部後方と、眼の上に角があることです。そのためこの標準和名があります。
なお、檜山・安田(1972)は本種を食用魚として有用な種とみなしています。もちろん、観賞魚としても飼育されていますが、飼育は容易ではないようです。全長は20センチを超えます。
海外のハタタテダイ属魚類
日本には上記の6種のハタタテダイ属魚類が知られていますが、世界にはもう2種類のハタタテダイ属の魚が知られています。
インド洋に生息するファントムバナーフィッシュ Heniochus pleurotaenia Ahl, 1923 はツノハタタテダイによく似た種ですが、腹部に白い線が入るのが特徴です。ツノハタタテダイのインド洋の分布はインド洋東部のクリスマス島(オーストラリア領)までとなっており、それより西のサンゴ礁域では本種に置き換わるようです。
紅海にはレッドシーバナーフィッシュ Heniochus intermedius Steindachner, 1893 という種がいます。この種はハタタテダイとよく似ていますが、頭部までも暗色なので見分けることができます。2種ともに観賞魚としてほかのハタタテダイ属魚類同様輸入されているようですが、個体数は少なく、またまれに入荷しても高価です。