「ウツボ」といえば、伊勢志摩、和歌山県、高知県などでよく食べられている地域の名物魚といえる存在ですが、近年はインターネット通販の普及に伴い、日本のどこにいても購入して食べることができるようになりました。
しかしその一方、ウツボを「海のギャング」と評するような報道もいまだにあり、一部の地域では減少しているといいます。今回はウツボ科魚類の食についてご紹介します。
ウツボ科とは
ウツボ科はウナギ目ウツボ科に属する魚のグループです。温帯から熱帯、亜熱帯の浅海に多くの種が生息し(一部の種は深海に見られる)、世界で200種以上が知られています。
ウツボ科の最大の特徴としては、ウナギ科魚類やアナゴ科魚類では明瞭な胸鰭を有しているのですが、ウツボ科魚類には胸鰭がないことが挙げられます。また多くの種で鋭い歯を有しており、咬まれると大けがをするおそれもあります。
食用になるウツボ科魚類
種類が多いウツボ科魚類ですが、そのなかでも食用になる種は一部のものに限られます。
本州から四国、九州ではウツボ科魚類は多くはなく、温帯をこのむ種も何種かいますが、食用になる種はほぼ種の標準和名ウツボ(学名Gymnothorax kidako[Temminck and schlegel, 1846])に限られています。
漁法はおもに筒を沈めてウツボを獲るという漁法が多く行われているほか、延縄漁業、釣り、カゴなどでも漁獲されます。
ウツボの学名のうち種小名「kidako」とは長崎県や神奈川県三崎における地方名「きだこ」に由来するとされていますが、もとは鹿児島県で気猛き魚という意味の「きだか」から来ているとされます。
琉球列島においてはウツボ科魚類の種が多く、食べられている種も多いです。沖縄県では種の標準和名ウツボはほとんど見ることができず、慶良間諸島阿嘉島で水中写真が撮影されている(瀬能・小野,2000)ほかに確認されていないようですが、大型種のドクウツボやニセゴイシウツボ、ナミウツボ、アデウツボといった種が潜り漁や延縄漁業などにより漁獲されており、魚市場に出ています。
ウツボ科の魚は海外でも食用となっており、ヨーロッパでは古代から地中海産のメディテラニアンモレイ(Muraena helena Linnaeus,1758)を食用にしていたようです。
ウツボの毒
熱帯太平洋地域でもウツボの仲間は食用にされていますが、そのなかのドクウツボやハナビラウツボなどはマーシャル諸島やマリアナ諸島などでは有毒とされています。
毒性はシガテラ毒とされており、サンゴ礁における食物連鎖ピラミッドの上位にあるウツボ科魚類は毒をもつことが多いようです。ドクウツボの名前の由来も食すると中毒するおそれがあるということで、この名前がついたようです。
ただし、「沖縄さかな図鑑」によると特定の地域をのぞき、毒化することはほとんどないとされています。
このほかアデウツボ(学名Gymnothorax nudivomer[Gunther, 1867])では皮膚の粘液に毒があり、その粘液に触れると手の傷がしみることがあるとされています。この毒はアデウツボの表皮にある特殊な細胞により生成されるもので、魚毒性があるといいます。
ただ沖縄では本種も食用とされており、たまに市場に出ることがあります。
ウツボの食べ方色々
ウツボの食べ方は色々あり、薄造り(刺身)、たたき、唐揚げ、煮物、蒲焼などで賞味されています。
その中でもウツボのたたきは人気がある食べ方で、大きなウツボをおろして開き、皮のほうから炙るようにして焼きます。皮目がぷりぷりとしておりコラーゲンが豊富、その部分が好きという方もいます(私も)。
ウツボがよく漁獲され、食文化が根付いている高知県では道の駅などでもウツボを販売していることがあります。もちろん長いまま「どーん!」と販売されているというものではなく、切ればウツボのタタキで食べられるような状態で販売されています。
写真も我が家でウツボを捌いたのではなく、道の駅において上記のような状態で販売されていたものを購入し、家で切って食べたものです。
揚げ物としては、ウツボの干物を素揚げにして食べることがあります。紀伊半島では冬季に大きなウツボを干している光景がよく見られ、冬の風物詩ともなっています。
干物にしないでそのまま食べるウツボの唐揚げも美味しいものですが、ウツボ科のなかでも細長い体の種は骨が大きく、強く、食べにくいところがあります。
1
2