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知られざる水族館の展示設計の世界 おすすめの<ランドスケープ展示>3選!

ランドスケープという言葉をご存じでしょうか。これは自然や人工の景観や風景を指す言葉で、建築業界においてよく使われます。

水族館にもこのランドスケープを用いた展示が多く存在します。まるで海の中に潜っているかのような感覚になれる展示や、自然の躍動感を感じられる展示など、各園館に素晴らしい展示が存在します。

今回はランドスケープ展示について、その歴史、そして元水族館飼育員でもある筆者が見て特に凄いと感じた各園館のランドスケープ展示をご紹介します。

ランドスケープとは

ランドスケープとは景観や風景を指す言葉です。

水族館においては、生き物を見せるだけではなく、その生き物が生息している環境や景観もまるごと展示として再現しているものといっていいでしょう。

擬岩やサンゴ、海藻、水流、背景からライトの当て方まで、細部にこだわっている展示もあります。

ランドスケープ展示の発祥

筆者が調べた限り、このランドスケープ的な概念の最初はアメリカのマリンスタジオ(1938 年開館、後のマリンランド・オブ・フロリダ)のオセアナリウムだと考えられます。オセアナリウムは Ocean と Aquarium をかけた造語で、海中と同じような環境で水生生物を飼育・展示することです。

日本では1957 年に開館したみさき公園自然水族館が最初にオセアナリウムを導入したと言われています(参考:『水族館の文化史―ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界』溝井祐一著、勉誠出版刊)。

なお、さらに元を辿れば、古代の人々が“水中世界”という異界を閉じ込めて支配したいという旧約聖書的な考え方や、そこから繋がる“水中世界”への興味、博物学の普及にも繋がってきます。そうした水中世界への憧れや需要の高まりが、巡り巡って今日の水族館のランドスケープ展示を生み出したと考えられます。

日本における水族館のランドスケープ展示

そんな深い歴史もあるランドスケープ展示ですが、現在の日本においてもたくさんの素晴らしいランドスケープ展示が存在します。

ここからは筆者が特に感動した水族館のランドスケープ展示をご紹介します。

サンシャイン水族館「洞窟に咲く花」水槽

サンシャイン水族館「洞窟に咲く花」水槽(撮影:みのり)

東京・池袋にあるサンシャイン水族館の海中洞窟を模した水槽「洞窟に咲く花」水槽。ここでは岩肌にたくさんのサンゴの仲間が暮らしており、彼らの伸ばすポリプがまるで花が咲いているかのように美しく揺れています。

筆者の思うこの水槽の凄さは奥行きです。水槽が非常に縦長で、ものすごく奥まで水槽が続いているように見えます。しかし実際には目で見るよりも小さい水槽で、奥行きを出すことでどこまでも続く海中洞窟を再現しているのです。

また、ここで展示されているサンゴの仲間はいわゆる熱帯のサンゴとは別で、光に依存せず、直接プランクトンなどを捕食して生きています。そのため、彼らは獲物の気配を感じないとポリプを開きません。飼育スタッフの方々が断続的に餌を与えることで、常にポリプを開かせているのです。

その名の通り“洞窟に咲く花”を開花させるための飼育スタッフさんたちの努力が、この素晴らしいランドスケープ展示を作り上げているのです(参考:サンシャイン水族館オフィシャルガイドブック (株)サンシャインシティ発行)。

アクアマリンふくしま

アクアマリンふくしま「サンゴ礁の海水槽」(撮影:みのり)

水族館マニアからの評価も高い、福島県にある水族館・アクアマリンふくしま。同館は開館3周年の際に「海を通して『人と地球の未来』を考える」の理念の下に環境水族館宣言をしています環境水族館宣言|アクアマリンふくしま)。

体験的学習や保全活動支援、動物福祉などに重きを置くことはもちろん、環境水族館の名に恥じない“環境再現度”の高さも素晴らしい水族館です。ガラスドーム内は自然光を取り入れた環境下で、植物とともに展示がされています。

アクアマリンふくしま「熱帯アジアの水辺エリア」(撮影:みのり)

アクアマリンふくしまの館内展示は、そのほとんどでランドスケープがつくられているといっても過言ではありません。水槽だけではなく、周りの景観についても環境の再現に力を入れており、まるで日本の里山や熱帯のジャングルを歩いているような気分になれます。

そうした自然の中を探索しながら生き物を見つけていく、他にはない水族館です。これらの景観に浸りながら「『人と地球の未来』を考える」のがアクアマリンふくしまなのです。

 

海響館「フンボルトペンギン特別保護区」

「フンボルトペンギン特別保護区」(写真提供:下関市立しものせき水族館「海響館」)

山口県下関市にある巨大水族館「海響館」。こちらの水族館も多くの水槽でランドスケープが施されており、館内を歩いているだけでも探検気分を味わうことができ、ワクワクします。

多くの素晴らしいランドスケープ展示の中、筆者が特にお気に入りなのは「ペンギン村」というエリアの中にある「フンボルトペンギン特別保護区」です。

こちらは野生のフンボルトペンギンが生息するチリのアルガロボ島をイメージして作られた展示です。

多くの方はペンギンの展示と聞くと、氷や雪、岩の上に立っているペンギンを想像するかと思いますが、こちらではサボテンに囲まれたフンボルトペンギンを見ることが出来ます。

「フンボルトペンギン特別保護区」の植物(写真提供:下関市立しものせき水族館「海響館」)

「え? ペンギンにサボテン?」と思うかもしれませんが、本来フンボルトペンギンは南米のチリやペルーの太平洋沿岸のサボテンが生えているような乾燥した場所に生息しているのです。

この展示では野生地の環境に近づけるため、本物の植物を植えていたり、海鳥のフンが積み重なってできたグアノ層を再現したりした展示を行っています。

海響館「フンボルトペンギン特別保護区」で荒波に揉まれるフンボルトペンギン(撮影:みのり)

中でも特に驚いたのがプールです。ペンギンプールというと、ベタ凪で波が立っていない展示がほとんどですが、こちらでは心配になるレベルの荒波の中をフンボルトペンギンたちは泳いでいます。実際に見てみると、ものすごい荒波が巻き起こっているのが分かります。

でも、心配はいりません。本来、フンボルトペンギンはこうした環境の中でたくましく生きている鳥類なのです。

可愛い・のんびりとしたイメージを吹き飛ばす、ペンギンたち本来の生き様を見られる展示がこの「フンボルトペンギン特別保護区」なのです。

ランドスケープ展示の裏に秘められた想い

こうしたランドスケープ展示をしっかり見ていくと、その技術や精密さ、発想、全てに驚かされます。そして、なぜそこまで展示にこだわるのか、その理由も伝わってきます。

それは単なる生き物の見世物小屋ではない、自然や生き物の躍動や生き様を感じてほしい、自然の尊さを思い出してほしいという、水族館スタッフさんたちの熱いメッセージなのかもしれません。

皆さんも今回紹介した展示はもちろん、各水族館の展示を今一度じっくりと観察してみてください。展示一つ一つの背景にあるメッセージを汲み取りながら水族館を回ると、また違った目線で水族館を楽しむことができますよ。

(サカナトライター:みのり)

参考文献

1.これまでの話~海響館とチリ~?下関市立しものせき水族

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みのり

みのり

センス・オブ・ワンダーを大切に

北里大学海洋生命科学部卒・元水族館飼育員。魚類・クラゲはもちろん、イルカの飼育も担当。非常に多趣味で、生き物観察やフィールドワークはもちろん、映画や読書、ゲームも好き。多趣味ゆえの独自の視点、飼育員視点を交えつつ、水生生物やそれを取り巻く自然環境、文化、水族館の魅力を発信していきます。

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