日本に生息するほとんど魚には<標準和名>という日本語の名前が与えられています。これにより魚を識別することが可能になっている反面、少しだけ不便なこともあります。それは近縁ではのない分類群の間で、似た名前が使われることです。
今回は特に紛らわしい名前をピックアップして紹介してきます。
違うグループなのに似た名前の魚
日本には4,600種を超える魚が生息しており、そのほとんどに標準和名が与えられています。その中には似た名前を与えられた魚が多く存在し、混乱してしまう人も少なくありません。
基本的にはクロタチカマス科とカマス科のように、比較的近縁なグループ同士の間で似た標準和名になることが多いですが、「~ダイ」や「~イワシ」のように、一部の分類群においては近縁ではないグループにも似た名前が付く場合があります。
魚の分類に馴染みのない方からすれば紛らわしいことこの上ないですが、魚類学会が公開している「魚類の標準和名の命名ガイドライン」ではこれらを制限していません。
“タイ”と付く魚にタイ科の魚は少ない
キンメダイ、マトウダイ、イシダイ、フエダイ、ネンブツダイ……。このように標準和名に”タイ”が付く「~ダイ」はたくさんいますが、実はここで挙げた魚はすべてタイの仲間ではありません。いわゆる、「あやかり鯛」です。
タイの仲間、つまりスズキ目タイ科の魚は日本には僅か14種しかおらず(2023年10月現在)、日本産魚類全種(4,600種)から見れば非常に少ないことが分かります。代表的なタイ科には、釣りでお馴染みのクロダイやチダイ、キダイなどがいますが、中にはキビレアカレンコのようにタイ科でも”タイ”と付かない種も少数存在します。
また、イシダイやフエダイのように「~ダイ」と付く魚のほとんどはタイ科と同じくスズキ目に属する魚類ですが、キンメダイ(キンメダイ目)やマトウダイ(マトウダイ目)のようにタイ科とは目から異なる魚でもタイの名前が使われるケースも見られます。
タイと「あやかり鯛」との見分け方ですが、日本産のタイ科の特徴は体高が高く、体が側扁することや体色が赤色系か黒色系であること、背鰭の棘が11~13本であること、鱗がやや大きいことから区別できます。
メゴチはコチの仲間ではない
この現象は”タイ”以外でも起こります。
底引き網や投げ釣りでよく見かけるネズッポ科の魚たちの多くには”コチ”と付きますが、コチの仲間ではありません。マゴチやワニゴチなどコチの仲間はコチ科の魚です。このグループはネズッポ科と同じスズキ目に属しますが、前者はネズッポ亜目であり後者はカサゴ亜目に分類されます。
両者は形態も著しく異なり、ネズッポの魚は口が下向きなのに対して、コチ科の魚は下顎が突出し口が上向きであることが特徴です。その他にもコチ科の魚は細かい鱗を持ちますが、ネズッポ科の魚は鱗を持たないという特徴があります。
このように一見似ているような標準和名の魚でも、よく観察すると全く違って見えることが多いです。ちなみにネズッポ科を”メゴチ”と総称して呼ぶ地域がありますが、コチ科に標準和名「メゴチ」がいるので混同しないように注意が必要です。
コバンザメはサメではない
良く誤解されるのですが、コバンザメは名前にサメと付きますがサメとは網から異なるグループです。
コバンザメは現生する魚の大部分が属する条鰭網(じょうきこう)に分類されますが、サメはエイと同じ軟骨魚網(なんこつぎょこう)に分類されます。両グループは骨の作りが異なり、前者は硬い硬骨から成りますが、後者は名前の通り比較的柔軟な軟骨から成ります。
また、コバンザメと軟骨魚網の違いは外部の形質からでも明らかです。コバンザメの鰭は鰭条と呼ばれる筋のような構造と鰭膜(きまく)と呼ばれる膜状の構造から成りますが、軟骨魚網の鰭にはこのような構造は見られません。
深海魚にはイワシの仲間がたくさん?
深海には標準和名に”イワシ”と付く魚が多くいます。
まず、イワシの仲間の定義を議論する必要がありますが、ここでは水産業界で広くイワシとして扱われるウルメイワシ科、ニシン科、カタクチイワシ科の魚をイワシの仲間とします。
イワシといえば、浅い海に生息する魚に名付けられるイメージですが、深海性のグループであるセキトリイワシ科やハナメイワシ科、ソコイワシ科の魚たちの多くは標準和名に”イワシ”と付きます。
これは推測にすぎませんが、深海魚の体が脆く、鱗が剝がれやすい特徴からイワシと名付けたのだと考えます。
全長2.5mのイワシ
2021年に新種記載されたセキトリイワシ科のヨコヅナイワシは、全長2.5メートルにも及ぶ大型種です。
本種は2,000メートル以深の超深海から採集されたことと、この水深帯では非常に大きいな硬骨魚であることから大きな話題となりました。
標準和名にイワシと付くので「こんな大きなイワシがいるのか」と驚かれた方もいたようですが、本種はセキトリイワシ科の魚なのでイワシの仲間ではありません。
生の魚に触れて特徴を覚えるのが近道
このように紛らわしい標準和名が付けられた魚も数多く存在するので注意が必要です。
一つ一つ分類を覚えていくのはとても大変なので、実際に生の魚に触れて特徴を覚えていくことが一番の近道になります。
(サカナト編集部)