日本では多種多様な魚が漁獲されるものの、流通する魚は一部です。ほとんどの魚は流通しないか、流通しても狭い範囲でしか出回りません。
しかし、こういった魚たちの中には非常に美味しい魚も含まれているのをご存知でしょうか?
この記事ではそのうちのひとつ、ニザダイについてご紹介します。
ニザダイとは
ニザダイはスズキ目ニザダイ亜目ニザダイ科に属する中型魚で、名前に「タイ」と付くもののマダイやクロダイの仲間(タイ科)ではありません。
日本では現在46種ものニザダイ科魚類が知られており、ニザダイの他に水族館でお馴染みのナンヨウハギやキイロハギもこのグループに含まれます。本科の魚は「○○ハギ」と付くことが多いものの、カワハギ科とは遠い分類群であり、ニザダイ科はスズキ目なのに対してカワハギ科はフグ目に分類されます。
両グループはニザダイ科には1対の鰭条を持った腹鰭があるのに対してカワハギ科の腹鰭は棘状であることから区別することが可能。また、ニザダイ科の魚はガラスのように美しいアクロヌルス期を経て成魚になることが知られています。
“サンノジ”と呼ばれる理由
そんなニザダイですが、「サンノジ」という標準和名に匹敵する有名な呼び名を持ちます。
「サンノジ」の由来はニザダイ科の尾柄部にある骨質板であり、尾柄部に鋭い棘を備えた黒い骨質板を3~4個持つことから「三ノ字→サンノジ」と呼ばれるようになりました。
他のニザダイ科の尾柄部でもこの骨質板が見られ、種によって色や数、可動・不可動など多様性がることから種の同定に非常に重要な形質です。
ニザダイは美味しい魚
ニザダイは青森県以南の日本各地に分布しており、定置網や刺網、遊漁の釣りでもしばしば見られる魚です。特に磯釣りでしばしば見られることから釣り人にとってはお馴染みの魚でもあります。
しかし、ニザダイは海藻を主食とする草食性であることから独特の磯臭さがあり、漁獲されても食用にしないこともしばしば。また、磯焼けの原因としても知られています。
実際に漁業関係者であってもニザダイを食べたことがないという人も少なくなく、「ニザダイ=磯臭い」というイメージを持った方も少なくありません。
ですが、ニザダイ自体、体長40センチにもなる魚であり、旬の個体や脂の乗った個体は味が良く、刺身や寿司で食べると非常に美味。時期によっては味の評価が異なり、一部の地域ではそこそこの値段で取引されています。
また、ニザダイ科の多くが南方種であり、沖縄県では複数のニザダイ科が食用として利用されているようです。大型種であるテングハギ(チヌマン)やニセカンランハギ(トカジャー)はまーす煮の原料として知られています。
キャベツで臭みを抑えたニザダイ
磯焼けの原因でもあるニザダイですが、回転寿司チェーンを展開するくら寿司株式会社はニザダイが草食性であることに着目しました。
うにをキャベツで養殖する手法から着想を得て、ニザダイにキャベツを与えて育てたところ、臭いが軽減できることが判明。2020年11月に試験販売を行いました。
さらに同社は、九州の定置網で漁獲されたニザダイに廃棄予定のキャベツを与えて養殖。2022年9月16日より全国の店舗で数量限定で販売を開始し、約一週間で完売しました。
世間一般では食用として認知されていないニザダイ。今後、臭みを抑えたニザダイの安定供給が可能になれば食用として広く認知される日も来るかもしれませんね。
(サカナト編集部)