魚には「標準和名」と呼ばれる、日本で学名の代わりに用いられる名称があります。
この標準和名のほか、魚には各地で名付けられた別名や地方名が存在する場合もあり、中には変わった別名を持つ魚も少なくありません。
中には、異なる分類群であっても姿が似ていることがあり、淡水魚にもかかわらず、別名に海水魚の名前が用いられることがあります。
淡水魚と海水魚には一見すると共通点がないように思えますが、なぜそのような名前がついたのでしょうか。
メバルに似るから<カワメバル>?
別名「カワメバル」と呼ばれるオヤニラミは、メバル(メバル科)同様にスズキ目に分類される魚です。
オヤニラミの標準和名は鰓蓋にある眼状班が「親をにらむ子」を彷彿とさせることに由来し、カワメバルという別名は姿が海に生息しているメバルに似ることに因みます。
さらに、オヤニラミの学名はCoreoperca kawamebariですが、種小名はカワメバルに由来しているようです。
本種の自然分布は京都府以西の本州、四国北東部、九州北部ですが、近年は個体数を減らしており、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧 IB 類に分類されているほか、香川県では指定希少野生生物に指定され、原則、採捕することができません。
その一方で現在、東京都や愛知県、滋賀県、和歌山県などの自然分布域外でも見つかっており、国内外来種とて注視しれている魚です。
オヤニラミはその見た目から採集・飼育の対象となることからも、自然分布域外での移入は人為的ものと推測されています。
イワシに似るから<カワイワシ>
コイ目科の魚にはイワシに似た魚もいれば、キスに似た魚もいます。
本種の学名はHemiculter leucisculusで、コイ目コイ科ヘミクルター属に分類される小型~中型の淡水魚です。Hemiculter属の魚は日本を除く東アジアに広く分布し、日本では属名を日本語読みした「ヘミクルター」、姿がイワシに似ることからカワイワシとも呼ばれています。
本種は観賞魚として流通する魚でしたが、近年は野外でも見つかっており、2017年には岡山県の百間川で本種の侵入が日本で初めて報告されました。
当時、カワイワシは百間川のみからしか見つかっていませんでしたが、現在は百間川だけではなく、他の水域にも分布が拡大していることが分かっています。
今後、国内の広い範囲で定着する可能性が懸念されており、適切な防止策が求められている魚です。
キスに似ているから<カワギス>
キス(キス科)に姿が似ることから、別名「カワギス」と呼ばれている魚はカマツカです。
本種はコイ目コイ科に属する淡水魚で、標準和名のカマツカは鎌の柄に似ることに由来しています。
国内では岩手県・山形県以南の本州、四国、九州に生息。河川の上流・中流域の砂底で見られます。
また、従来、日本のカマツカ属はカマツカのみでしたが、近年は分類学的研究が進み2019年にスナゴカマツカとナガレカマツカが新種記載されました。
海の魚の名前が付く魚はほかにも
このように姿が海の魚に似ることから、別名に海水魚の名が使われる淡水魚は少なくありません。
今回、紹介した3種以外にも「カワ○○」と名付けられた魚はいくつかいるのでぜひ探してみてください。
魚の名前の由来を知ることにより、その魚についての理解がより深まるでしょう。
(サカナト編集部)