ある特徴から名前が付けられた、体長数センチほどの深海魚・キュウリエソ。
日周鉛直移動(日没と日出で分布する深度を変える習性)を行い、時に海岸に大量に打ち上げられることが知られてます。
日本海においては生物量が非常に多いことがわかっており、この海域の食物連鎖を支える非常に重要な存在です。
キュウリエソは発光器を持った深海魚
キュウリエソはムネエソ科キュウリエソ属に分類される体長5センチ程までの小型種です。
ムネエソ科の多くは体高の高いタイプですが、本種を含むキュウリエソ亜科は体高が低いグループに分類されます。
腹部や頭部に発光器を備え、特に腹部下面の発光器群は圧巻であると同時に、この発光器群により他の日本産キュウリエソ亜科と区別することが可能です。

日本のキュウリエソ属はキュウリエソのみが知られており、日本海、青森県~土佐湾、小笠原諸島、琉球列島などの50~300メートルに生息しています。
キュウリエソの学名はかつてMaurolicus japonicusでしたが、現在、M. japonicusはオーストラリア及びニュージーランド沖に分布するMaurolicus australisの新参シノニム(同じ種類の動物に別々の学名が付けられていること)として扱われているようです。
浅瀬に出現する深海魚
キュウリエソは中深層遊泳性の魚類ですが、日周鉛直移動を行い時に夜間は浅瀬に移動することが知られてます。
そのため、定置網などの浅海で行われている漁業で漁獲されるほか、時に海岸に打ち上げられる個体もいます。2012年には、島根県隠岐の島・塩の浜で500メートルにわたり数百万ものキュウリエソが打ち上げられる事態が発生し、大きな話題となりました。
また、本種は単一種で音響散乱層(海洋表層や深海で発生する音波の散乱層)を形成することから、これまでに魚群探知機による観察が行われています。
過去の研究で、日本海のキュウリエソは日中は160~200メートルに分布し、日没時には30メートルに移動、夜間は130~170メートルを中心に分布することが明らかになっています。
<キュウリエソ>の名の由来
発光器だけではなくキュウリエソという標準和名も本種が持つ魅力の一つ。植物の名前が標準和名に付くことはしばしばありますが、いずれも色や形に由来しています。
しかし、キュウリエソの体色は銀色であり、緑色のキュウリとは似ても似つきません。

では、なぜキュウリエソという変わった標準和名が付いたのかというと、実は本種の匂いに由来しています。
キュウリエソは名前の通り、体からキュウリの匂いがする変わった魚で、その匂いはある程度離れていても分かるくらいです。
味は悪くないものの、通常は食用になりません。
また、キュウリの匂いがする魚はキュウリエソ以外にも知られており、チカやカワサギの仲間であるキュウリウオの標準和名もキュウリの匂いがすることに由来しています。
キュウリエソやキュウリウオのように、標準和名が匂いに由来しているケースは珍しいかもしれません。
重要な餌生物
発光器を持ち、キュウリの匂いがする深海魚。
これだけ聞くとすごく珍しい魚のように感じますが、日本海においては生物量が莫大で、1970年代の日本海における卵稚仔調査の結果を用いて330万トンと試算されいます。
特に、隠岐諸島周辺や富山湾など特徴的な海底地形を有する海域に多いことが判っています。
日本海に多く生息するキュウリエソは、中型・大型魚類をはじめ、イカなど多くの海洋生物の餌となっていると考えられています。
キュウリエソ自体は食用になりませんが、生態系を支える重要な種であり、間接的に我々の生活を支えていると言っても過言ではないのです。
(サカナト編集部)