サメ・エイ類の一部では海水と淡水の両方に適応可能な広塩性を獲得した種が知られています。
これらの種は、ほぼ塩を含まない淡水域でも非常に高い体液浸透圧を維持し、環境との浸透圧差により絶えず体内に水が流入しています。このことから、淡水では過剰な水を効率的に排出することが求められますが、どのようにして、どのくらいの水が排出されているのかは分かっていませんでした。
そうした中、東京大学大学院理学系研究科の油谷直孝大学院生(研究当時)らから成る共同研究グループは、アカエイを対象に調査。尿量調節メカニズムを分子レベルで解明しました。
この研究成果は『iScience』に掲載されています(論文タイトル:Extensive urine production in euryhaline red stingray for adaptation to hypoosmotic environments)。
海水と淡水の両方に適応
板鰓類(サメとエイ)の一部では海水域と淡水域の両環境に適応することが可能な広塩性を獲得した種が知られています。

これらの種ではほとんど塩を含まない淡水域においても非常に高い体液浸透圧を維持しており、環境との浸透圧差により絶えず体内へ水が流入。このことから、淡水域では過剰な水を効率的に排出する必要があります。
しかし、実際にはどのような仕組みで、またどのくらいの水が排出されているのかは謎に包まれていたようです。
広塩性を獲得したアカエイ
こうした中、東京大学大学院理学系研究科の油谷直孝大学院生(研究当時)らから成る共同研究グループは海水と淡水を行き来可能なアカエイ Hemitrygon akajei を対象に調査を実施しました。

研究では独自開発した採尿装置が用いることにより、麻酔を使わずに連続歴な採尿と正確な尿量の測定が実現。採尿と測定の結果ではアカエイが海水から低塩分水へ移行した場合、尿量が87倍も増加すること、単位時間あたりの尿量が6.4 mL/kg/hに達することが判明しました。
この値は他の脊椎動物と比較してとても高く、アカエイの腎臓が高い排尿能力を持つことを表しています。
また、低塩分水に慣れさせたアカエイを再び海水に戻すと、尿量が移行前と同じ水準に戻ることも判明。これにより、アカエイの腎臓は環境変化に応じた高度な可塑性も備えていることも示されたのです。
ろ過量増加に加え再利用の抑制も
一般的な硬骨魚類についても、海水から淡水へ移行すると尿量が増加することが知られていますが、その主な要因は腎臓の糸球体ろ過量(GFR)の増加で、尿量とGFRの増加率は概ね一致するとされています。
アカエイの場合、低塩分水への移行に伴いGFRが6.8倍に増加するものの、これだけでは87倍もの尿量の増加が説明できないようです。
この謎を突き止めるため、研究では水輸送に関わる主要な分子「水チャネル(AQP)」に着目。腎臓における発現変動を解析した結果、淡水への移行によりAQP3-1、3-2、15の発現が顕著に減少していることが判明したのです。
これにより、GFRの増加とAQPの発現減少により尿細管での水の再吸収を抑制。結果的に尿量を増加させていることが示唆されました。
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