魚による食中毒というと、激しい腹痛を伴う「アニサキス」がよく知られています。
一方、マグロやカツオといった赤身の魚を食べて起こる「ヒスタミン食中毒」は誰にでも起こり得ます。
筆者は保育園の調理師として勤務し、子どもたちの健康を守るため、日々細心の注意を払っています。魚料理は成長期に欠かせない良質なタンパク質やDHAを含む重要な食品ですが、アレルギーと共に注意すべき事項として「食中毒」が挙げられます。
「ヒスタミン食中毒」は、魚の鮮度管理によって発生リスクが左右される食中毒です。どのように防げばいいのでしょうか。
ヒスタミンによる食中毒とは
ヒスタミン食中毒とは、アミノ酸の一種である「ヒスチジン」を多く含む魚が、ヒスタミン生成菌によって分解され、体内に大量の「ヒスタミン」が蓄積されることで発症する食中毒です。
主な原因となるのは、マグロ、カツオ、カジキ、サバ、イワシ、サンマ、ブリなどの「赤身魚」です。
これらの魚にはもともとヒスチジンが多く含まれており、不適切な温度管理によって菌が増殖すると、ヒスタミンが生成されます。
カツオ(提供:PhotoAC)この毒素の恐ろしい点は、一度生成されると、加熱しても分解されないことです。
煮ても焼いても、一度増えてしまったヒスタミンを消すことはできません。
また、見た目や臭いにも大きな変化が現れないことが多いため、食べる直前まで気づきにくいという特徴があります。
ヒスタミン食中毒は食後すぐに表れる
ヒスタミン食中毒の症状は、食べてから非常に早く現れるのが特徴です。
一般的には食後数分から1時間以内に、顔面(特に口の周りや耳たぶ)の紅潮/赤くなる、じんましん、発疹、頭痛、めまい、発熱、吐き気、腹痛、下痢などの症状があらわれます。
多くの場合、症状は軽症で1日以内に回復しますが、子どもや高齢者、アレルギー体質の方は重症化することもあります。
食べている最中に「舌がピリピリする」と感じた場合は、ヒスタミンが高濃度に含まれている可能性があるため、すぐに食べるのを止めることが重要です。
<魚アレルギー>と<ヒスタミン食中毒>との違い
ヒスタミン食中毒は、症状がじんましんや赤みであるため、しばしば「魚アレルギー」と混同されます。
しかし、この2つはメカニズムが全く異なります。
タンパク質に過剰反応する<魚アレルギー>
特定の食物に含まれる「タンパク質」に対して、体の免疫機能が過剰に反応して起こります。
その食べ物に対して抗体を持っている人だけに起こり、たとえ新鮮な魚であっても、ごく少量で発症します。
化学物質の大量摂取で起こる<ヒスタミン食中毒>
ヒスチジンの分子模型(提供:PhotoAC)食品中に蓄積された「ヒスタミン」という化学物質を大量に摂取することで起こる「化学食中毒」です。
これは免疫反応ではないため、アレルギーを持っていない人を含め、誰にでも起こり得ます。
つまり、「今までこの魚を食べても大丈夫だったから」という経験は、ヒスタミン食中毒の予防には通用しません。
すべては魚の管理状態にかかっているのです。
食中毒を防ぐために気を付けること
筆者が働く保育園の給食室では、食材の受け取りから提供まで徹底した温度管理を行っています。
家庭でも次のポイントを守ることで、リスクを大幅に下げることができます。
1. 鮮度の良い魚を選び、すぐに冷蔵・冷凍する
ヒスタミン生成菌は、常温で爆発的に増殖します。
買い物では魚を最後にカゴに入れ、持ち帰る際は保冷剤を使用しましょう。
帰宅後はすぐに冷蔵庫(できればパーシャル室やチルド室)へ入れ、早めに食べきることが基本です。
早めに冷蔵庫へ(提供:PhotoAC)2. 常温放置は絶対に避ける
「少しの間だから」と、調理前にキッチンの台所に魚を出しっぱなしにするのは厳禁です。ヒスタミン生成菌は15℃前後から活発になり始めます。
解凍する場合も、常温ではなく「冷蔵庫内での自然解凍」または「電子レンジでの解凍」を行ってください。
3. 「加熱すれば大丈夫」という思い込みを捨てる
加熱しても防げない(提供:PhotoAC)ヒスタミンは熱に非常に強く、一般的な調理温度(焼く、揚げる、煮る)では全く減りません。
鮮度が落ちてしまった魚や保存状態に不安がある魚は、もったいないと思っても思い切って廃棄する勇気が必要です。
4. 信頼できる販売店で購入する
ヒスタミンは、漁獲から流通の過程での温度管理にも影響します。適切な温度管理がなされている信頼できるお店で購入することも、重要な防衛策の一つです。
これらは釣った魚も例外ではありません。クーラーボックスに入れて運び、ヒスタミン生成菌の多い魚のエラや内臓はできるだけ速やかに除去しましょう。
安全な魚食ライフを
ヒスタミン食中毒は、適切な知識と温度管理さえあれば防ぐことができる食中毒です。
保育園の給食でも、子どもたちに魚の美味しさを知ってもらうために、最も大切にしているのは「加熱に頼らず、菌を増やさないこと」です。
家庭でも、「赤身魚は常温に置かない」「ピリピリしたら食べない」という基本をぜひ徹底してみてください。正しく怖がり、正しく扱うことで、これからも安全でおいしい魚料理をみんなで楽しみたいものです。
(サカナトライター:竹原とも)