筆者には、「2026年こそは食べてみたい」と思っていた魚がありました。
それが「ヒゲダイ」という魚です。
そんなヒゲダイを早くも1月半ばには入手することに成功。観察した上で、食べてみました。
ヒゲダイとは
ヒゲダイ Hapalogenys sennin Iwatsuki and Nakabo, 2005 は、2013年の『日本産魚類検索 第3版』ではスズキ目・イサキ科・ヒゲダイ属に含まれている魚です(なお、分類については後述します)。
ヒゲダイ(提供:椎名まさと)各鰭をふくむ全身が黒っぽく、体高が高くなること、体側には目立つ縦帯・横帯がないことなどが特徴。そして、その名の通り下顎に細長いひげが密生していることが最大の特徴として挙げられます。
分布域は日本近海(本州・四国・九州沿岸から奄美大島)および韓国沿岸とされ、東アジアにのみ生息する沿岸魚といえるでしょう。
きっかけは<ヒゲソリダイ>
今回、ヒゲダイを食べたいと思ったきっかけは、2025年の年末にヒゲダイと同じヒゲダイ属の魚であるヒゲソリダイHapalogenys nigripinnis (Temminck and Schlegel, 1843)を購入して食べたことです。
ヒゲソリダイ(提供:椎名まさと)ヒゲソリダイは、これまでまったく食べたことがない魚というわけではありませんでしたが、今回食べたヒゲソリダイは以前まで食べてきたものとはまったく別物。身にはしっかりと脂がのっていて、刺身にしたらかなり美味しいものでした。
ヒゲソリダイの刺身(提供:椎名まさと)この仲間は日本に4種がいるのですが、あと1種のヒゲダイだけがどうしても手に入らず、「ヒゲダイを入手して食べたいな」と思うようになったのです。
年が明けて早速、長崎魚市場の仲卸業を営む石田拓治さんに問い合わせてみたところ、次にヒゲダイが水揚げされたら送っていただけるとのことでした。
<ヒゲダイ>がやってきた
そして1月中旬のある日、我が家についにヒゲダイがやってきたのでした。全長51.3センチ、標準体長41.8センチ、魚体重3.15キロという大物です。
さっそく、このヒゲダイをなめるように観察していきます。
ヒゲダイのひげを観察
ヒゲダイの大きな特徴といえば、なんといっても下顎にある「ひげ」です。
ヒゲダイに限らず、この属の魚は下顎にひげを有しているものの、それらの魚では短くてあまり目立ちません。
一方、ヒゲダイでは非常にはっきりとしたひげをもっています。
ヒゲダイの下顎に密生しているひげ(提供:椎名まさと)ひげは白くて、手触りはとても柔らかいですが、このひげにはなんらかの感覚器官が備わっているのかもしれません。
ヒゲソリダイの下顎のひげ(提供:椎名まさと)鰓蓋に「とげ」
ヒゲダイは前鰓蓋骨の後縁に小さな「とげ」を持っています。
形状や並び方などはまるでのこぎりのようであり、うかつに触ると怪我をしてしまいそうです。
ヒゲダイの前鰓蓋骨(提供:椎名まさと)この特徴はコショウダイなど、ほかのイサキ科魚類ももっていますので、これらの魚を捌く際には注意したほうがよいかもしれません。
新種記載から20年余り
ヒゲダイは古くから知られていた魚なのですが、実は新種記載されたのは2005年と、今から20年ほど前になります。
もともとヒゲダイの学名は Hapalogenys nigripinnis とされ、ヒゲソリダイの学名は H. nitens とされていました。しかし、このうち H.nitens は H.nigripinnis の新参同物異名とされたため、ヒゲソリダイの学名は当時ヒゲダイに使われていた H.nigripinnis となります。
ヒゲダイという標準和名に与えられた学名はなくなってしまったため、未記載であったということになり、H. sennin という学名が与えられました。種小名は日本語の「仙人」を意味しており、おそらく下顎のひげにちなむのでしょう。
標準和名も学名も「ひげ」から来ているのですが、フィリピンの世界的な魚類データベースである「Fishbase」で使用されている英語名についてもLong barbeled grunter、つまり「長いひげのイサキ」という意味になります。