“魚と昆虫”にまつわる定説が覆る──。
神戸大学大学院農学研究科の研究グループは、ため池などにすむ小型の水生昆虫が、捕食者であるナマズに一度飲み込まれそうになっても、口の中で抵抗することで生きたまま吐き出され、生還できることを明らかにしました。
これまで、魚にとって無毒で口に入るサイズの小さな昆虫は「簡単に捕食される」と考えられてきました。本研究は従来の常識を覆し、「小さな昆虫ほど生き延びるチャンスが高い」という結果を示しました。
研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:Small prey fight back: post-capture defences shape prey–predator size relationships)
ナマズに水生昆虫を与え観察 半数を吐き出す
研究グループは、水槽内でナマズに対し、水面を泳ぐミズスマシ科2種、遊泳性の高いゲンゴロウ科3種、水草などを食べるガムシ科3種の成虫、計8種の水生昆虫を1個体ずつ与え、その後の行動を観察しました。
図:水生昆虫と捕食者であるナマズ © Shinji Sugiura, Scientific Reports 2026 (https://doi.org/10.1038/s41598-026-39251-7) (CC BY-NC-ND)その結果、与えた昆虫はいずれもいったんナマズの口内に取り込まれましたが、およそ半数の51%が生きたまま口から吐き出され、残り49%のみが消化されることが分かりました。
捕食成功率(消化された割合)は昆虫の種類によって20〜90%と大きく異なり、化学防御物質を分泌するミズスマシ科やゲンゴロウ科では、分泌腺をもたないガムシ科よりナマズに吐き出されやすい傾向が見られました。
体の小さい種ほど吐き出される
さらに、いずれのグループでも体の小さい種ほど吐き出される割合が高まり、最小種のマメガムシでは20個体中14個体(70%)が生きたまま口から戻されました。
図1. ナマズによる水生昆虫8種の捕食成功率 © Shinji Sugiura, Scientific Reports 2026 (https://doi.org/10.1038/s41598-026-39251-7) (CC BY-NC-ND)吐き出されるまでの時間は最短で1秒未満、最長で76分、中央値は3.5秒と幅がありました。
獲物を噛み砕く歯を持たないナマズにとって、小型の昆虫は口内で制御することが難しく、飲み込みにくかった可能性も指摘されています。
脚の有無が生死を左右 “踏ん張る”防御戦略
さらに研究グループは、最小種であるマメガムシがどのようにして吐き出されているのかを調べるため、中脚と後脚を切断した個体も用意し、同様の実験を行いました。
その結果、脚を切断したマメガムシでは20個体中17個体(85%)が消化され、吐き出されたのは3個体(15%)に留まったことから、脚の有無が生死を大きく左右することがわかりました。
マメガムシは中脚と後脚を使って巧みに水中を泳ぐ種です。ナマズに捕食されると、これらの脚で口の中の壁にしがみついたり、飲み込まれそうになっても再び口の方へと体勢を立て直したりすることで抵抗し、最終的に吐き出されると考えられます。
また、消化されたマメガムシはいずれも26〜166時間後に死骸が糞として排出され、生きたまま総排出腔から脱出した個体は確認されませんでした。
捕食者によって異なる脱出戦略と防御戦略
同研究グループは以前、水田に生息するマメガムシがカエルの消化管を通過し、総排出腔から生きて脱出する“脱出戦略”を報告しています。
一方、今回の結果から、この仕組みはカエル類に特化したものであり、魚に対しては「口内で抵抗して吐き出させる」というまったく別の“防御戦略”をとっていることが明らかになりました。
外来魚の放流が与える影響の評価にも期待
水生昆虫にとって、捕食者である魚の存在は生息地の分布や個体数を左右する重要な要因です。
魚がいる池や湖では、大型の水生昆虫が少なく、小型種が多いことが知られており、これまで主に「小さいと見つかりにくい」「栄養価が低く好まれにくい」といった理由で説明されてきました。
今回の研究は、それに加えて「小さな水生昆虫は、魚に襲われても口の中で抵抗し、飲み込まれずに生還できる可能性が高い」という新たなメカニズムが働いていることを示しました。
研究グループは、今後は他の水生昆虫や魚種にも対象を広げることで、ため池や湖への魚類導入、とくに外来魚の放流が水生昆虫群集に与える影響を、より正確に予測できるようになると期待しています。
(サカナト編集部)