外来生物というとある程度の大きさの生物が注目されがちですが、小さな生物でも外来種が知られています。
ミジンコ類は動物プランクトンの1群で、淡水生態系の食物網を支える重要な存在です。近年は、人間活動に伴い周辺水域のつながりが強まり、動物プランクトンが本来の分布域を超えて移動する事例が世界各地で報告されています。
東北大学大学院生命科学研究科の研究グループは、2025年に国土交通省が実施した河川水辺の国勢調査で得られた動物プランクトンを解析したところ、新豊根ダムから北米原産のミジンコを発見しました。
この研究成果は「Check List」に掲載されています(論文タイトル:First record of Daphnia retrocurva Forbes, 1882 (Crustacea, Cladocera, Daphniidae) outside its native North America (Shin Toyone Reservoir, Japan))。
淡水生態系に欠かせないミジンコ
ミジンコ属は、止水域に広く分布する小型の甲殻類です。
植物プランクトンを食べるミジンコは、魚類や節足動物の餌にもなっており、淡水生態系の食物網における重要な存在として知られています。
近年は、人間活動によって水域間の移動機会が増加。ミジンコの中には乾燥や低温に強い休眠卵を作る種も多いことから、泥や水、動物、機材を介して長距離移動する可能性が指摘されています。
このことから、本来の分布域を超えて新たな水域に定着する外来動物プランクトンの実態の把握が重要とされています。
ダム湖で得られたサンプルを解析
研究グループは、国土交通省と水資源機構等が実施している「河川水辺の国勢調査」の一環として、2025年に愛知県の新豊根ダム湖(みどり湖)で採集された動物プランクトンの解析を行いました。
新豊根ダム湖(提供:PhotoAC)なお、サンプルは湖の水深62メートルの湖底付近から水面まで、プランクトンネットを用いて採集されています。
頭部が反り返ったミジンコ
サンプルを顕微鏡で観察した結果、在来のミジンコと異なり、頭部が反り返ったミジンコが発見されました。
さらに、このミジンコは頭部の形に加え、単眼の有無、触覚の遊泳剛毛などの形態が、北米を原産とする Daphnia retrocurva の特徴によく似ていることが明らかになっています。
北米産のミジンコ属に同定
サンプルから無作為に選ばれた12個体について、1個体ずつDNAを抽出し、DNA解析も行われました。
その結果、12個体から同一のハプロタイプしか検出されず、COI領域の塩基配列を国際塩基配列データと比較したところ、北米産の Daphnia retrocurva と高い一致率を示したとのこと。
さらに、12S rDNA 領域の塩基配列も北米産の Daphnia retrocurva と一致。これらのDNA解析の結果と形態的特徴から、新豊根ダム湖で得られたサンプルは Daphnia retrocurva と同定されました。
DNAの差はほぼない
Daphnia retrocurva が北米以外で発見されたのは、今回が初めてだそうです。
本種は中国や韓国といった近隣地域の研究でも報告されていないことから、新豊根ダム湖の個体群は比較的最近、人間活動によって持ち込まれた外来種と考えられています。
加えて、日本の個体と北米の個体でDNA配列もほとんど差がなく、12個体からは同一のハプロタイプしか検出されていません。これは、少数の個体・休眠卵が導入され定着した可能性を示唆しているといいます。
外来種は微小な生物でも
今回の研究によって、愛知県の新豊根ダム湖に北米産のミジンコ属 Daphnia retrocurva が分布していることが明らかになりました。北米以外からの本種の記録ははじめてとのことです。
一方、本種がどのような経路で持ち込まれたのか、なぜ新豊根ダム湖のみで確認されているのかは分かっていません。
今回の成果は、外来生物の侵入が肉眼で見ることが難しい微小な生物にまで及んでいること、継続的な水辺の生物調査が微小な外来生物の早期発見に役立つことを示しています。
(サカナト編集部)