深海に生息するチョウチンアンコウの一部では、オスがメスの体に永久的に結合して繁殖を行う「寄生雄」と呼ばれる特殊な繁殖戦略が知られています。
この独特な生態がどのような条件で進化したのかについて、東京大学の研究グループが数理モデルを用いた理論解析を実施。深海のように雌雄が出会いにくい環境ほど、この繁殖戦略が進化しやすくなることが初めて理論的に示されました。
研究成果は、生物学分野の学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されました(論文タイトル:Reproductive assurance drives the evolution of parasitic males in anglerfishes)。
出会いにくい環境が特殊な繁殖戦略を後押し
研究を行ったのは、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍時の佐藤雄亮氏(現・沖縄科学技術大学院大学博士研究員)と、瀧本岳准教授による研究グループです。
チョウチンアンコウの一部の種では、オスがメスの体に結合し、メスから栄養を受け取りながら一生にわたって精子を提供し続けます。この「寄生雄」は脊椎動物の中でも極めて珍しい繁殖様式ですが、なぜこのような戦略が進化したのかは十分に解明されていませんでした。
深海は個体数が少なく、オスとメスが出会う機会が限られる環境であるため、一度出会った相手との繁殖機会を確保するために寄生雄という戦略が生まれた可能性が考えられてきました。
一方で、寄生したオスは他のメスと繁殖できなくなり、メスも寄生したオスを維持するために栄養を消費するなど、雌雄双方に負担が生じることから、進化の仕組みは明確ではありませんでした。
数理モデルで利益とコストのバランスを解析
研究グループは、オスが寄生を試みる確率と、メスがそれを受け入れる確率が進化する数理モデルを構築しました。
モデルにおいて、寄生が成立すると将来の繁殖機会を確保できる一方で、メスは栄養負担によって産子数が減少し、オスは他のメスとの繁殖機会を失うという条件を設定。こうした利益とコストの双方を考慮しながら解析を行いました。
深海で寄生雄が進化する仕組みの概念図(提供:Sato Y, Takimoto G. Reproductive assurance drives the evolution of parasitic males in anglerfishes. Proceedings of the Royal Society B (2026). CC BY 4.0.)その結果、雌雄が出会いにくい環境では、オスが寄生を試みる確率とメスが受け入れる確率の両方が高まり、寄生雄という繁殖戦略が進化しやすくなることが示されました。一方で、寄生による負担が大きくなるほど、この戦略は進化しにくくなることも分かりました。
研究グループは、将来の繁殖機会を確保する「繁殖保証」の利益と、寄生に伴うコストとのバランスが重要な要因であると結論づけています。
他の生物の繁殖戦略の理解にも期待
今回の研究は、寄生雄の進化を「繁殖保証」という観点から理論的に説明した初めての研究とされています。
研究成果は、チョウチンアンコウ特有の繁殖様式の理解にとどまらず、繁殖相手を見つけにくい環境で生物がどのような適応を遂げてきたのかを考える上で、新たな理論的基盤になることが期待されています。
また、植物の自家受粉や動物の単為生殖など、他の生物で見られる多様な繁殖戦略の進化を理解する上でも応用が期待されます。
(サカナト編集部)